M42マウント有力機、FUJICA ST801。オールドレンズに悦楽。

FUJICA ST801

そもそもFUJICAフジカとは、富士フイルムのフィルムカメラブランド。フジのカメラで「フジカ」だというのだから、とても分かりやすく可愛げのあるネーミングである。ST801は、他社製品とも互換性のあるM42マウントが採用された高性能カメラ。オールドレンズを楽しむにあたり最高に優れた選択肢だ。フルマニュアルカメラではあるが、露出計が内蔵されており、「撮る」という行為を最大限に楽しむことが出来る。

富士フイルムが35mmフィルムフォーマットの一眼レフを初めて開発し販売したのは、ST701という機種で1970年発売であった。ニコンのF2及びフォトミックが発売されたのが1971年。その後1972年には革新的新技術を搭載した新機種、ST801の販売を開始。世界初のファインダー内露出計のLED表示最高シャッター速度1/2000秒TTL開放測光を実装した。

当時のカメラで、M42マウントが採用され、シャッター速度1/2000秒が達成されているのは、フジカのST801ただ一つ。最後期に35mmフィルム一眼レフカメラへと参入した富士フイルムが、その威信をかけたカメラだったのである。しかも一眼レフとしては、非常に小型で携行しやすい。それに壊れにくい機械式シャッター。電池が無くとも完全にカメラとして機能するのである。

M42レンズを当時のカメラST801で、味わい尽くす。

FUJICA ST801で、M42レンズを味わう。

開放測光に対応したフジノンレンズならば、ニコンF2と同じくTTL開放測光で撮影が出来るというメリット。そして日陰や夕暮れなど暗い場面で、難なく露出計を読み取り可能な革新的技術LED表示。古の名玉たちに戯れることの出来るM42マウント規格が採用され、絞り込み測光可能。フィルムやレンズの表現を最大限に活かす1/2000秒という高速シャッター。

その何分不足のない性能は、もはや圧巻である。アダプターを介さない当時のフィルムカメラのシステムで、M42レンズというオールドレンズの宝物庫に足を踏み入れる至極。実際にST801の性能は後発企業ながら国内外で一定の評価を受け、富士フイルム一眼レフの主力機として活躍した名機である。特に当時1/2000秒を達成しているカメラは、FUJICA ST801Nikon F2くらいのもの。

FUJICA ST801は、M42マウントの覇道。

世界を広く見渡してみても、M42マウントを採用したカメラの中で、これほど機能的で高性能なカメラは、ST801の他に類を見ない。その後、最新技術を持って蘇らせたというコシナが開発し、2003年に発売されたフォクトレンダーのBessaflexベッサフレックス TMという存在を抜きにして。当時最高水準の技術を惜しげもなく搭載したことで、それまで必然であったカメラの弱点をことごとく補っている。

M42マウントは、統一規格として素晴らしい汎用性を備えている。しかし時代を経るにつれ、カメラに求められる技術水準が高まり、時代遅れのマウントとなってしまった。それでもST801は、保守的なマウントを用いながら、革新的技術を持ったカメラとして現代においても魅力的な性能を誇っている。M42マウントレンズを楽しむ母艦としての価値は、特筆すべきものがあろう。

しかもFUJICAといえば、やはりカメラブランドとしてはマイナーな部類に位置づけられている。そんな中、中古市場での価格は誰しもが手にしやすい水準。費用対効果コストパフォーマンスとしても抜群のものがある。そういえば、オリオン大星雲の別名をM42と呼び、それになずらえてM42マウントで数多あまたのレンズ群もM42大星雲と喩えられている。そんな大銀河へ、FUJICA ST801という宇宙船で出帆したい。

名玉、Carl Zeiss Jena FLEKTOGON 35mm f2.4で撮る作例。

デジタル一眼とSuper Takumar 55mm F1.8で撮影したST801。

Carl Zeiss Jenaカールツァイス・イエナ社とは、第二次世界大戦後に分割統治された東西ドイツにおいて、同時に分社化されたカールツァイス社の東ドイツ企業である。創業の地イエナが東ドイツに残り、西側がCarl Zeiss、東側がCarl Zeiss Jenaを名乗った。ドイツ統一後には、再び一つの企業へと統合されたが、今なお東ドイツ時代に生産されたレンズ製品が、オールドレンズの名玉としての名声をあげる。

今回使用したFLEKTOGONフレクトゴンは、後期型の「electric MC FLEKTOGON」というモデルで電子接点がレンズマウント部に設置されている。ST801では絞りを連動させる爪が干渉するレンズもあるとの事であったが、この場合は何ら問題なく装着させることが可能である為、その心配は無用である。

代表格、 PENTAX Super Takumar 55mm f1.8で撮る作例。

デジタル一眼とFLEKTOGON 35mm f2.4で撮影したST801。

M42マウントカメラといえば、PENTAXペンタックス社のSPが最も有名であるといえる。1964年に販売を開始、初めてTTL測光を搭載した大衆向けコンシューマーカメラとして、世界的に爆発的人気を誇った。まさにM42を広めるうえで布教者となった機種である。そのレンズ群もまたオールドレンズとして、今もなお高い人気を保っている。映し出された空気感やフレアゴーストは、魅力として位置づけられている。

ピントが合っている部分はシャープでありながら、ボケ感も美しい。全体の優し気で柔和な雰囲気の写り。オールドレンズとして、特に親しまれている理由がわかるようである。FUJICA ST801ならピント面が薄い明るいレンズでも、ファインダーが明るくピントの波も掴みやすい。

和製バブルボケレンズ、Fujinon 55mm f2.2で撮る作例。

デジタル一眼とFLEKTOGON 35mm f2.4で撮影したST801。

富士フイルムのFujinonフジノン 55mm f2.2は、開放測光に対応したSTシリーズ用レンズである。シャッターボタンを半押しするだけで、ファインダー内が明るいまま測光し続ける。ST801の真骨頂は、こうしてM42マウントの他社製オールドレンズを絞り込み測光で用いながらも、自社製の開放測光対応レンズまでも完全に駆使できる点にある。このフジノンレンズも個性派レンズの粒ぞろい。

絞り開放測光の恩恵は素晴らしい。明るいファインダーのまま絞りを自在に変えることの出来るお手軽さは、やはり大きなポイントとなる。時として、オールドレンズの特性を絞り開放で味わう。バブルレンズのボケを最大限に活かすことの出来るシャッター速度1/2000秒という性能。このカメラには、それを楽しむための土壌が十二分に備わっているのである。

FUJICA ST801の使い方および外観

デザインは、角ばっておりシンプルながら可愛げのあるフォルムをしている。その大きさは、とても小柄。Nikon F3と比べてみても殆ど変わらない。ボディの質量は585gと軽い。しかし持ってみるとギッシリと身の詰まった重さを感じる。

FUJICA ST801正面
FUJICA ST801の背面。

背面には、ファインダー左側に電池の挿入口がある。ファインダーの視野率は約90%程度、内部は明るくLED表示によるTTL露出計は、非常に見やすい。暗いところでも視認できる点は、追針式よりも優れている部分である。ちなみに電源のON/OFFボタンなどは無い。

TTL絞り込み測光と開放測光の方法

開放測光に対応した純正フジノンレンズなら、ただシャッターボタンを半押しするだけで開放測光を活用することが出来る。この点、Nikon F2など独自マウントを採用した機種と同程度の性能を持っているのも嬉しい。M42マウントの互換性、汎用性を維持しながら開放測光の利便性も享受する優れたカメラである。

レンズ横についた、絞り込みボタン。

開放測光に対応していないオールドレンズなどを使用する際、必要になる絞り込みボタン。このボタンを押し込みながらシャッターボタンを半押しすることで、TTL絞り込み測光が可能。ファインダーは暗くなるが、オールドレンズ資産を活かしながらカメラ付属の露出計を用いることが出来る利便性は素晴らしい。

絞り込みボタンを押しこみながら、シャッターボタン半押し。

少しだけ絞り込みボタンが固い為、長時間撮影すると少し指が疲れてくる。その都度、指を交代させながら撮影すれば問題なし。しかも表示はLEDなので、見やすく直感的。露出計は少し明るめに出るところが特徴である。

レバーを押し下げながらレンズ交換

レンズ着脱の方法。

従来のM42マウントはロック機構が存在しない。しかし、ST801には絞り開放測光などにも対応するためマウントにロック機構が搭載されている。絞り込みボタン下の▲ボタンを押し下げながら、M42スクリューを捻じると、電子接点が搭載された「Carl Zeiss Jena electric MC FLEKTOGON」などのレンズも装着可能。開放測光に対応したフジノンレンズも、同様にレンズ離脱を行う。

▲ボタンを押し下げながら、着脱。

最も外縁部にある、絞り連動用の爪が干渉するレンズも存在するようである。しかし、マウントのレール中央部にのみ電子接点があるようなレンズならこの操作で装着が可能。Carl Zeiss Jena社のelectricであれば特段問題にはならない。

電池交換の仕方。使用電池は、4LR44および4SR44。

電池は、4LR44という規格。

電池交換する際は、コイン式で開蓋。勝手に開くこともなく安心感がある。コインは外出先でも常に持ち歩くために利便性も良い。ただしこのカメラで使用する、4LR444SR44という規格はマイナーなもの。信頼性に厚い日本企業の製品も少しずつ少なくなっている。

入手が少しずつ困難になる中、一般的に流通するLR44ボタン電池を4つ重ねて使用できるアダプターも便利。このカメラを長期使用する場合は、安心感がある。

フィルムの装填方法、裏蓋を開ける。

巻き戻しノブを引き上げ、裏蓋を開ける。

ただ左手側の巻き戻しノブを上方向に引っ張るだけで、裏蓋を開けることが出来る。その際、ロック機構は無いが、ノブの引き上げには多少力が必要で、勝手に裏蓋が開いたりする事故は起こりにくい設計となっている。

フィルムを装填する。

そこにフィルムを装填し、挙上中の巻き戻しノブを今度は押し下げてフィルムを固定させる。次にフィルムのベロを少しだけ引っ張り、スプールのスリットに差し込んでいく。

巻き上げレバーの棒に差し込む。

巻き上げレバーの下部、スプール軸に溝があり、そこにフィルムのベロ先端を差し込むのみ。他のカメラメーカーと比してみても、非常に分かりやすく差し込み易い機構。その際、歯車にフィルム両側の掘り込みを合わせ、まっすぐに差し込む。

フィルム装填まで自動で行ってくれるカメラとは異なり、キチンとフィルムのベロをスリットに差し込まなければならないところがポイント。フィルムのセッティングが確実に行えていないと以降の写真撮影ができない。

差し込んだら、巻き上げレバーを押し込む。

フィルムのベロを差し込み終わったら、巻き上げレバーを押し込み、フィルム先端を1回転程度させて巻き込む。その際、フィルム面に浮いた部分が無いように張ることを意識するのがポイント。フィルム面の安定さが、写りにも多少反映される。

裏蓋を閉めたら感度設定を必ず。

ネガフィルムの場合であれば、光許容度も十分にある為、フィルムの感度を完全に合わせていなくとも現像に大した問題は起こらない。しかし可能な限り適正露出を得る為、忘れずに設定しておきたい。シャッター速度ダイヤルを引き上げながら回すのみ。ASAは現在のISOだと考えて差し支えない。

空シャッターを切って、ダイヤルを1に設定する。撮影の方法。

フィルムの装填が終わったら、フィルムカウンターが1になるまで数回の空シャッターを切って、巻き上げレバーを押し込む。本番の写真撮影はそこからがスタート。

巻き上げレバーを押し込む。

巻き上げレバーを押し込んで、シャッターボタンを押す。という行為は、撮影の際に必要な手順と同様。パコンッというシャッター音も可愛げがある。

シャッターボタンを押し込む。

シャッターボタン半押しにより、TTL開放測光も開始される。この測光に対応していない場合は、前述項目のように絞りこみボタンを押し込みながらシャッターを半押しすると露出計が作動する。全押しでシャッターが切れる。

フィルムを回収する方法

撮影が終わったらフィルムを回収する。裏蓋を開ける前に、カメラ内で撮影済みのフィルムを巻き上げる必要がある。早まって裏蓋を開けると、フィルムが感光してしまうため注意が必要である。

本体底面、巻戻しボタンを押す。

まずは裏蓋を開ける前に、巻き戻しボタンを押す。押し込まれたら、上部の巻き戻しノブを矢印方向に回し、巻き上げていく。フィルムが完全に巻き上がるまで回転させていく。

巻き戻しノブを矢印方向に回す。

巻き上がると、巻き戻しノブにかかる圧力が減るため感覚で分かりやすい。完全に巻き上がってから巻き上げノブを上方向に引き上げ、裏蓋を開ける。回収したフィルムは現像へ出す。

レビュー:フジフイルムのカメラで、オールドレンズに浸る。

富士フイルムのフルマニュアル機械式カメラで、当時の最新鋭レンズ。今でいうところのオールドレンズに浸る楽しさは、最良の選択肢である。きっとそれは、体で感じる時代考証、写真文化というところであろうか。

利便性を鑑みた場合には、時代の潮流にのってフルマニュアルから全自動へと向上している。ただ表現性を鑑みた場合、より撮影者の意思を反映できるフルマニュアルの一つ一つの確かめながら撮影する行為は、より魅力的に映るものである。いずれにせよ、全自動カメラは撮影の幅を広げ、フルマニュアルカメラは撮影を奥深いものとしている。それは、どちらが良いかという対立軸というより、カメラや写真趣味の両軸と見ることが出来よう。

ところで富士フイルムは、第二次世界大戦前夜の1940年に光学ガラスやレンズなどに進出。当時の日本において民間の光学ガラス製造は、日本工学工業ニコンとその出身技師が独立して創業した小原光学硝子オハラとわずか2社が手掛けるのみであった。そんな新興分野に進出し、総合写真感光材料メーカーとしての礎を築いた。富士フイルムは、光学機器メーカーとしての長い伝統と技術を持つ老舗なのである。

老舗でありながら、企業文化としては伝統と革新を融合し、常に模索し続ける企業のように映る。同社が手掛けたFUJICA ST801は、彼らに相応しく伝統的で革新的、信頼感のある制御システムを備えている。またレンズはEBCフジノンをはじめとして名玉と謳われる製品も多く揃っている。M42レンズを、そんなフジカで撮影する贅沢さは素晴らしいものがある。

ST801の特に優れているポイント

他社レンズが使用可能という汎用性の極めて高いM42マウントでありながら、開放測光と絞り込み測光に対応。革新技術LEDによる分かりやすいファインダー内の露出表示。シャッター速度は当時最速の1/2000秒を達成。そんな風に華々しくも機能性や汎用性に著しく優れたカメラがFUJICA ST801なのである。

ニコンF3とフジカST801を比べる。

それでありながら小型で軽量に纏め上げられた技術力には感服する他ない。ニコンF3と比べてみても、その大きさは一回り小さく取り回しもしやすい。

ST801の苦手とするところ

当時ニコンのフラッグシップモデル、F2が既に視野率約100%を達成。そんなとき、フジカST801は約90%程度に留まっていた。その事実は、この分野のスペックで多少劣る面があることを示す。ただし写真の隅々まで確実に意図した表現を狙う場合を除いては、特に問題になるものでもない。

コラム:過去へ遡ってみて分かる、大切な価値。

時代の流れとしては、フィルムからデジタルへ。フルマニュアル機から全自動機へ。そんな風に利便性と効率性は確実に進化してきたはずである。未だフィルムを用い、またはフルマニュアル機を用いるというのは、「物好き」と往々にして捉えられることもある。

しかし、今度は逆にデジタルからフィルムを用いてみて、全自動機からフルマニュアル機を用いてみて分かることもある。それは、フィルムは決して時代遅れのものではなく、現代でも通用する優れた表現方法であり、フルマニュアル機はより意図を反映させるための手段であった。それらは廃れるべくして廃れたのであるけれども、決して手段として劣っていたわけではない。経済合理性の原則という枠組みから弾き飛ばされただけの事だったのである。

きっと現代において効率性や合理性の追求の結果、失われた価値というものがある。それらは往々にしてより本質的な価値を宿していたりする。技術の進歩は日進月歩で、常に人々の生活は合理的で効率的なものとなった。それにも関わらず、そこには失われた価値が存在しているはずである。

とはいえ現代技術を否定するわけでは無く、アナデジ世代にしか味わうことの出来ない両方の価値を見つめ、本質的な価値を認めたいものである。デジタルとフィルムには、異なる表現性が存在している。フルマニュアルや全自動では、表現性の深まりと広がりという違いが生まれる筈である。そうして、それらはいずれも重要な価値を宿している。

かつて、ミヒャエル・エンデという児童文学作家が描いた「モモ」には、時間泥棒という存在が登場する。皆が時間を効率的に使い、”時は金なり”と余った時間を”時間貯蓄銀行”に収める事で、人生を効率的に長く生きることが出来るというもの。しかし、それによって人々の心からは余裕が失われ、本質的な豊かな時間が奪われてしまうという話である。

ST801というフルマニュアル機の場合。手動で露出を合わせ、ピントを合わせ、フィルムを現像に出す。そうしてようやく写真として完成するものであるが、写真に対してより意思を投射し思い入れを深める事で、その場その場の感動に対する記憶の定着も深まっている。それらもまた本質的な価値の一つとして、改めて見直されて良いもの。それは明らかに豊かな時間だったのである。

このコラムの筆者
ZINEえぬたな

"古典は常に新しき火種"
をモットーとして、残すべき「価値」を次世代へ継承。

個人で編集するZINEをウェブ上で運営。「えぬたな」は一つ一つの記事を読み切りとして編集。自らの写真と文章で、ヒトの思いを伝え、世の中の良いモノ、残すべきコトを紹介。

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