リコーGR1vは、フィルム無双のスナップシューター。プロ機の貫禄。

RICOH GR1v

GR1といえば、言わずと知れたコンパクトフィルムカメラの名機である。高級コンパクトカメラという分野が最盛期の最中にあっても、道具としての実用性を追求していた孤高の存在。その使い勝手の良さも相まって「スナップシューター」の呼び声も高い。

搭載されたGRレンズは、28mmの焦点距離とF2.8という明るさを備え、4群7枚構成という設計が施されている。そこから飛び出る写真、生まれる表現はまさしく圧巻という他ない。比較的広角のレンズでありながら、周辺の隅々までを解像する描写力。リコー社が説明するところにたがうことなく、一眼レフの28mm交換レンズより小さく、軽く、しかも同等以上の描写性能を備える。

こうしてプロやハイアマチュアが求める写真クオリティを現実に提供したことによって、更にその名声は高まり森山大道もりやまだいどう氏や蜷川実花にながわみか氏などをはじめ多くの有名写真家さえも手にした。そうしてプロ御用達の定番ともなったカメラである。

コンパクトフィルムカメラがまさに熟されていた20世紀末、多くの名機が生まれている。フィルムカメラがポケットに入り、そんなカメラに備わったレンズが一眼レフの単焦点レンズを超えるほどの描写性を持っていたとしたら。そんな夢のような話を現実にする製品が数々誕生している。中でもRICOHリコーGR1vは、GR1系統の、そしてコンパクトフィルムカメラの完成形として、同社から最後に放たれた渾身の一矢いっしなのである。

GR1vと共に、その瞬間を撮るという快感。

その瞬間を切り取る。

手にしてすぐに実感するのは、その圧巻の軽量感である。質量180g、体感としてはもっと軽く感じる程。またグリップの握りやすさという点においても秀逸。ポケットから片手で取り出して、撮ってはしまう。そんな風によりスピーディな運用に適している。まさにスナップシューターである。頭で考えるより、感じたままに撮ることの出来る快感が得られるカメラだ。

軽快であるという快感。

勿論、同様の魅力を備えたカメラもあるが、その使用法においては国士無双の働きをする。何と言ってもその為に開発された製品。当初からプロの使用を想定している為、そのクオリティは極めて高い。実用に振り切れた製品であることが、このカメラの存在意義をより高めている。

街中で振り回すにも最適。

カメラというのは、街中で振り回す道具としては中々に物騒な道具である。自然の中などではいざ知らず、もしも人通りのある街中を撮影するときには、周囲に対する重圧を少しでも軽減したくなる。コンパクトフィルムカメラは、まさにそのような用途で活躍するのである。一眼レフに交換レンズを持ち歩くのと同様に、コンパクトフィルムカメラそのものを交換レンズとして運用することが出来れば、その使い勝手の良さたるや素晴らしいものがある。

街中で振り回すのも、難しくない。

GR1vのみをポケットに差し込み心の赴くまま、心象に浮かんだ情景を辿りただ撮り歩く。そうした時間は極めて心に従順になり、次第にあらゆるしがらみから解放されていくものである。それに加えて旅先で、Nikon F3などの比較的小型な一眼レフに望遠系レンズを装備、広角をGR1vなどのコンパクトカメラに任せるという使い道は、非常に利便性と速射性が向上する。それは、より現実の旅を楽しみながらも直感的に撮るという行為を可能としてくれるのである。

ガンマンのようなスナップショットを実現する。

心の赴くまま、撮る。撮れる。

GR1vは電源を入れた際のレンズの繰り出しスピードが非常に早く、すぐさま次の動作に移ることが出来る。またファインダー内の表示は暗いところで点灯、難なく読み取り可能。しかもピントの合焦に合わせ、中央表示が点灯や点滅をしたりと非常に直感的な撮影を可能としている。ただしかえってとても明るい場合には、若干見え難いこともあるが、特にそれが問題になる場面も少ない。

暗いところでも難なく撮影。

他にもモード変更によってはピント位置を固定した撮影が可能である。そうすることで速射性が更に向上し、まさにアメリカ西部開拓時代のガンマンを思わせるような早撃ちが可能となっているのである。そんなノーファインダーでの撮影を補完してくれるように、暗いところでは外装に備わった表示も点灯や点滅し、撮影状況を知らせてくれるのも嬉しい。

すぐにでも直感的な撮影が可能。

遠景やSNAPモードを用いてピント位置を固定、プログラムオートや開放F値などを用いる。そうすると益々、素早く直感的な撮影が可能となる。更に操作系も非常に分かりやすく、独立したダイヤルやボタンが適宜てきぎ配置されている。その為、たとえ初めて使用する者であっても、説明書を読まずとも直ぐに好みの設定を選択し、撮影に移ることが出来るカメラである。

近接時パララックス補正についても、ファインダー内部の枠が自動で変更されるため非常に分かりやすい表示である。オートフォーカスも早く、GR1vでのみマニュアルフォーカスも可能であるから、より意図した撮影が可能であるのも利点が大きい。

街中で最適な佇まいと画角。

ハイエンド志向なコンパクトフィルムカメラには、高級コンパクトと呼ばれる分野もある。それらは1980年代頃の華やかで煌びやかな世相を反映し、より高品位、高級路線がとられている。それらとは一線を画すGR1vは、奢侈しゃしよりも実用に振り切れた製品。バブルが崩壊した後に登場したR1の系譜を引き継ぎ、1996年にGR1が、1998年にGR1sが、2001年にGR1vが発売された。基本仕様は変えず、要望を集約して漸進ぜんしん的にアップデートされた製品群である。

高級コンパクトMinolta TC-1CONTAX T3と共に。

カラーは二種類、シルバーとブラックである。一般的にカメラは黒色であるほうが、悪目立ちせず威圧感を与えないとされている。しかしこのカメラのシルバーは、落ち着いた鼠色と所々に黒色が散りばめて配色され余計な威圧感を与えない。しかも外見のチープさも好感度を上げている。それにも関わらず、頑強なマグネシウム合金が用いられている事で、撮影者にも安心感を与える。

環境を含めた記録写真も。

そして搭載された28mmという画角は、街中での撮影で非常に使い勝手が良い。ただブラブラと街を歩くときの視野に近く、主役だけでなく環境を含めて多少説明的な写真を撮ることができる。超広角のようなインパクトは無いが、違和感の無い写真に落ち着く。記念写真や思い出写真には最適な製品である。本体は薄く設計され、ズボンのポケットにも滑らかに忍ばせることが出来る。

周辺まで、凄みある解像感。

ちなみに、広角でありながら周辺もしっかりと解像。その描写性が素晴らしく好評であったため、その後にライカLマウントを備えたレンズ単体も製品化されている程の実力。当然のことながらスナップ力を活かした作品撮りでも、圧倒的な実力を遺憾なく発揮する。小型軽量で周囲にも溶け込む外観、”能ある鷹は爪を隠す”まさにそんなことわざがピッタリのカメラなのである。

RICOH GR1vの作例

GR1vの使い方および外観

持ちやすいグリップ、薄く運びやすいデザイン。実用に即したフォルムは好感が持てる。外観およびファインダー内の表示に関しても、非常に分かりやすく見やすい。画角に関しても、被写体の距離に合わせて自動でパララックス補正が施され、光学式ブライトフレームファインダーの良さを最大限に活かしてくれる。

RICOH GR1vの外観
RICOH GR1vの背面

デザイン性はお洒落なカメラであるとは言えないが、より使い勝手が重視されている。持ちやすさや扱いやすさのトータルバランスは、実際に手に取ったコンパクトフィルムカメラの中ではズバ抜けている印象だ。どのような人が扱っても良いという意味では、ユニバーサルデザインの極致だとも言える。素晴らしく検討され、仔細に考え抜かれた開発者の姿勢を垣間見ることが出来る。

電源のON/OFFは、ボタン操作のみ。

赤色の電源ボタンを押す。

電源ボタンを押し、カメラのレンズを繰り出し収納する。少し凹んだ場所にボタンが設置してある為、ポケットの中で勝手に作動したりする心配がない。意図してボタンを押し込む操作が必要。操作の際にも赤色のボタンであるため、視認しやすいのもポイントである。

ストロボのモード変更、スイッチ操作で楽々。

スイッチ操作でストロボモード変更。

ストロボの強制発光やオート発光、発光禁止の3パターンのモード。背面左上部のスイッチ操作で簡単に変更することが出来る。急なモード変更を要求される場面でも、直感的で非常に分かりやすいシステムが採用されている。

露出補正も極めて簡単。上部ダイヤルを回す。

露出補正も簡単に出来る。

好みの露出に合わせる事で、状況に応じてプログラムオートをより活用することが出来る。変更する際には、ダイヤル式でより直感的な操作が可能な点が嬉しい。その場での状況次第で、判断を下したらすぐに実行できる柔軟性がある。

電池交換も楽に。電池は、CR2を使用。

カメラ底面に配置されたコイン式の電池蓋は、少し捻るだけと開けやすい構造。しかも蝶番が付いている為、蓋が落下し紛失する恐れも無い。こうした小さな配慮が行き届いているところも使用者にとって嬉しいところである。

電池交換はコイン式、CR2使用。

電池規格はCR2を使用する。家電量販店では、必ずといって良いほど売られている規格。未だ手に入りやすいのも良い。

レビュー:無限大の面白さを、最大限に切り取る快感。

石垣や足場のディテイールまで精細。

描写力に定評のあるGR1は、同じく名玉を搭載したTC-1と比しても素晴らしい実力を伴っている。シャープで繊細な緻密な描きこみは、このGRレンズならではのもの。周辺までしっかりと解像する様は圧巻である。色合いもT3などと比してみると、実直で落ち着いていて好感度も高い。被写体そのものをキチンと描き分けてくれるといった印象がある。特にプログラムオートを用いて、ボケを活かすとその立体感は益々素晴らしい。

暗いところでも難なく、素晴らしい描写。

オートフォーカスや自動露出も素晴らしく安定しており、道具としての信頼感は抜群。軽く取り回しも良い為、流し撮りや低速シャッターでの安定感も抜群である。片手での固定感は、他の多くのコンパクトフィルムよりも大きく優れている。勿論、両手で持つと更にその能力を引き出すことが出来る。スナップはもとより、風景写真などでの運用は勿論完全にこなすことが出来る。

GR1vの特に優れたポイント

手持ちカメラでありながら最高水準の描写力、現実を写し取るための直感的な撮影、まさにこの点において至高の存在であるといえる。撮影する際に重要なグリップ感や固定感は手振れをより軽減してくれる。こうして実用の道具として完成された製品。ポケットに入る収納性と携帯性を維持しながら、撮影のし易さを両立するという二項対立を同時に成し遂げる逸品である。

カメラで撮る楽しさを感じる。

高級コンパクトフィルムカメラという分野においては、上記のような高い描写力を備えた製品は多いが、同時に総じて奢侈しゃし性も高い。しかしこのカメラは、”持つ喜び”というよりも”撮る喜び”により重きを置き、それを最大限に引き上げてくれる製品である。現実に広がる無限大の面白さを発見し、それを切り取るという行為。それはまさにGR1vが可能とする快感なのである。

身近なものに、発見が宿る。

ドライブや散歩のひと時、たった一台だけ持ち歩きたい。そんなときに、ついつい選んでしまうカメラである。画角という意味では、ズームレンズを搭載したカメラのほうが無難であるのだけれど、望遠が必要になるような画角は捨て置いて、比較的近くの光景を最適に映し出す道具である。身体を動かして、少しだけ近寄ってみる。その一歩が、大きな発見へと繋がっていくのである。

GR1vの苦手とするところ

ブライトフレームや液晶表示など非常に見やすい。しかしながら、その電気系統部分が非常に経年劣化に対して脆弱ぜいじゃくであることは否めない。多くの製品が製造から長い年月を経て、表示の欠けなどこの部分に問題を抱えている。もしも中古市場で購入を考えている場合、この点に留意する必要がある。

ただし電池を入れ直した時点で、設定はリセットされる事などから、どのような設定で撮影されているかは、簡単に推測できる。そうした点に我慢できるならば、大した問題にはならない。その表示系統以外に脆弱性は無く、カメラとしての本質に影響はないのだから。

ところで液晶の欠けなども道具として用いることで、どうやら寿命も多少なり伸びるようである。通電させてシッカリと使っていると、やはりモノのほうもそれに応えてくれる。家屋なども人が住まなくなったりすれば、途端に加速度的にもろちてしまったりする。それと同様、カメラなども箪笥の肥やしであるよりは、もっと活躍していたいに違いないのである。

コラム:だからこそ、単焦点という選択も良い。

カメラレンズの選択肢には、ズームと単焦点がある。GR1vにおいては単焦点レンズが採用されており、28mmという画角のみに対応した専用設計によって描写力を追求、思想に妥協無く極められている。ただしここでは性能というものより、使い勝手のほうに焦点を当てたい。

ズームレンズは、意図した画角を精細に反映させようという試みを可能とする。如何にズームレンズであったとしても、ただ棒立ちであるという使い方は、やはり少しばかり面白みに欠けるというもの。もっとも足を用いる事で、実現しにくい構図を確実に決めることが出来る。そんな風にして表現者の意図をよりよく反映できるものと捉えられるのである。

ただし単焦点レンズは、足を用いて移動し構図を如何いかに工夫せんとしても、地形的制約や背景処理など、撮影者が意図するところを完全に反映しづらいという部分がある。だが、かえってそこに単焦点レンズの強みがあるような気がしている。人間の考える”完全”は、往々にして自然の中において”不完全”なものだからである。

ただ気の向くまま、思うところのまま街角を歩く。そうして旅の空気に浸る。そんなとき28mmという広角単焦点レンズは、実に丁度良い。創意工夫を凝らした写真にも勿論対応できるカメラではあるけれど、ただ単にフラフラと写真を撮り歩く。撮影したより記録的な写真が、時を経てより貴重な価値を持つ事がある。それはその時に意図した魅力とは異なる魅力だったりする。

構図の中で己の価値観を投射すると同時に、その他の価値要素が入り込む余地があるという余裕。自と他、正と反とががっすることによって、ようやく形作られた写真。そんな面白さも実に気持ちが良いのである。だからこそ、GR1vという選択肢を手放したりはしない。

このコラムの筆者
ZINEえぬたな

"古典は常に新しい"をモットーとして、相続されるべき普遍的な「価値」を次世代へ継承。

個人で編集するZINEをブログ上で運営。「えぬたな」は一つ一つの記事を読み切りとして編集。自らの写真と文章で、ヒトの思いを伝え、世の中の良いモノ、残すべきコトを紹介。

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