アカイプロファッショナルといえば、ヒップホップ界においては言わずと知れたMPC1000やMPC2000/XLやMPC3000といった圧倒的に著名なサンプラーの名機がある。信頼性も高く、中古での市場価格も高水準で安定している。とはいえ、最初から中古品に手を出すというのも敷居が高いように感じるところである。そのようなとき現代における新定番として、MPC Live IIという選択肢は非常に有力なものと成り得る。
ちなみに以前のアカイプロフェッショナルといえば、赤井電機のブランドとして誕生したものであるが、倒産後の2005年にはアメリカのDJ機器メーカーNumarkが買収してブランド名を継続させている。そのような事実関係を見て行けば、直線的な関係性は無いようであるが、それでも機器としての出来栄えはMPCの名前を冠すに相応しいクオリティを保った製品である。しかもRetro Editionならカラーリングも前述の名機を彷彿とさせてくれるのも唆られる。
MPC Live IIは、スタンドアローン型の音楽制作機器の極めつけ。PCへ接続する必要なく完全に独立した形でビートメイクを実現する事が出来る。しかもスピーカーまでも内蔵しており、内蔵バッテリーにより、外部電源に接続することも無い。只の一台携えていれば何時でも何処でも楽曲制作を楽しむことが出来る。たとえ、その場所が人里から離れた山の中であってさえも。
また独自にネットに接続して運用することも可能であり、ビートメイカー御用達のプラットフォームであるSpliceとの連携まで可能。こうした点から鑑みても現代の実用的な運用に絶妙にマッチングした機器である。このようにとことんまで独立した運用が可能なサンプラーであるが、MIDI音源、アナログシンセサイザー、PCや外部音源などとの接続も可能。そのように考えていくと、ビートメイク観点からしてあらゆる創造性を開花させてくれる逸品である。当然ヒップホップだけでなくとも、テクノやハウス、J-POPに至るまで、幅広い作曲シーンで活躍してくれるであろうことは間違いない。
ずっしりとした重みも感じるのであるが、筐体の頑丈さは持ち運びの際に嬉しい。何処へでも持ち運びたい道具としては、その信頼感ある外観は気持ちが良い。3.38kgという重量感は持ち歩く際にでも重過ぎるということなく、比較的持ちやすく運びやすい。楽曲制作は家で一人で引きこもりがちになるインドア趣味的なものであるが、MPCライブ2が可能にしてくれるフィールドへ赴くノマドなビートメイクは、清々しく気持ちが良い。その時その場所、リアルな感情から生み出される即興的なビートを刻む。
慣れてしまえば、非常に直感的でわかりやすい操作感を得られるユーザーインターフェイスである。ただし野外での使用の場合、自然光の中ではパットやボタン類の光が分かり難くなってしまう点もある。そうした意味では、屋内での用途の方に優れているとも言えるが、これ一台で何処ででもビートメイクや即興演奏が可能であるという点について、その場所を一切選ばないというのは革命的である。またPC操作から解放される点についても、やたらとモチベーションを引き上げてくれる要素と成り得る。
デジタル革命以降、音楽界においてもDTMが主流となりつつある。そんなときデジタル機器でありながらもアナログなスタイルを保ったアナデジ機材には、幾分役割の違いを感じるところがある。デジタルとアナログは、いずれも異なった魅力を備えている。DTMやソフトウェア全盛の時代にこのような機材を投入してくれる企業には好感を覚えるところ。
ソフトシンセの性能も優れた今日でも、やはりアナログシンセなども支持され続けているのには音の揺らぎや太さ、リアルで直感的な操作感などの理由があったりする。そうした意味では、アナログとデジタルの両刀を携えて趣味に没頭できるというのは、現代における特権ともいえようか。そうしてMPCライブ2をトリガーとして、多くのアナログ機材をシーケンス出来るというのも魅惑的な部分である。
純粋に音を楽しむという行為に関して、この機材は重宝する。電源ボタンをワンタッチするだけで起動し、作った楽曲を流す、または更に音を付加していく。そうした至高の楽しみへの敷居を大幅に低くしてくれ、容易に誘われていく。音楽を高尚な趣味として存在させるのではなく、誰もが安易に接しても良い身近なものであると許容する。ただそれだけで、所有する事に大いなる価値を見出すことが出来る。
ところでDTMを今から始めんと欲するならば、PCやDAWソフト、良質な音源、はたまたモニターヘッドフォンやスピーカーなどを購入したりする。そうすると想像以上に出費がかさんだりするものである。そのようなことを鑑みれば、一切合切をMPC live2に任せてしまえるというのは至高。この機材一つで音楽制作を丸々完結させることが出来るのだから大層心強い。そうした意味では、コストパフォーマンスの面から考えてみても相当に高水準の良品である。