各人にあったカメラというのがきっと存在するはずである。個人的に至高なる撮影環境の研究を行ってシステムを構築してきたが、これが少しでもカメラ選びの一助となれれば幸いである。
自分好みのカメラを確実に選択、撮影システムを構築。
写真趣味の面白さは内面の心理状態とも呼応し、多様に楽しめるところにある。どのような趣味においても空気感の違いが必ずやあるはずである。例えば、より軽快なお気軽派、より真剣な本格派という一見するところ二律背反的な楽しみ方は、何れにも存在する価値がある。更に一人の人間であっても時と場合によって、その立ち位置を変えて楽しみたい。いや楽しむことが出来るのは、まさに写真の醍醐味である。
一眼レフについて考察してみると、下記図のような一定の相関関係が見て取れる。勿論であるが、剛性や性能が高まれば、質量も比例的に増加する。そうすると活動の軽快さが犠牲になるという訳である。このような関係を鑑みれば、多くの一眼レフにおいてその楽しみ方は千差万別。それぞれの趣味スタイルに合わせたカメラ選びが必要となる。また心身状態や環境に応じて適宜、趣味の楽しみを自己に対する処方箋としたいものである。
左下の領域においては、剛性が担保されない代わりに軽快さが担保されている。このような一眼レフを用いて、晴れの日にお気軽な街歩きなんて最高ではないだろうか。機械式フルマニュアルカメラFUJICA ST801、絞り優先自動露出MFカメラNikon FE、全自動AFカメラCanon EOS7s、個性あるカメラに感じ入りながら軽快な旅路を。それぞれに差別化された撮影の楽しさに浸る。そして、写真の奥深さを知る。
右上の領域においては、機能性や剛性が担保された代わりに機動力が減じる。この場合、三脚を用いた本格的な撮影に勤しむというのも良い。勿論、天候を気にせず撮影に打ち込める利点も大きい。Canon EOS1vのような、頑強なカメラで世も明けぬ早朝から繰り出し、過酷な自然の姿を撮影してみるのも良い。時として、バランスの取れた絞り優先自動露出MFカメラNikon F3を持って、被写体と向き合う楽しさもある。そして、撮影の幅が広がる。
同時にCanon EOS7sやNikon F3は、非常にバランスがとれた機種。いずれもお気軽でありながら本格派、撮影行の心象に応じて選択したい。より操作を機械に任せながら、その場所で過ごす時間そのものを愉しむか。あるいは、マニュアルとオートの中間点で、快く被写体に集中するか。撮影者の感覚や気分などにも応じて、その日その時でカメラを選ぶという贅沢を謳歌する。
凸凹で補い合う一眼レフカメラ。正のシナジー。
カメラというものは、必然的に上位機種であればあるほど堅牢性に優れ、機能性にも優れている。だが写真撮影において、重さは死活問題。もしも撮影者の体力が損なわれれば、集中力や気力すら失われるのだから。そもそも写真を撮るという行為すら危うい。しかし一見するところ性能的に劣っているはずのミドル機種で、この軽さが上位機種に勝っているのである。
つまりこれらは、相互補完の関係にあるという訳である。だとすれば凸凹と組み合わせれば、あらゆる撮影状況において万全なる体制を構築できるものである。一台一台が素晴らしい製品で在ればこそ、撮影に応じてそれぞれの特色を活かしたフォーメーションで臨む。ある時はフィルムカメラを同士を、またある時はデジタルとも組み合わせて。
Canon EOS 7sとEOS-1Vの比較、相互補完。
製品名 | Canon EOS 7s | Canon EOS-1V |
発売年 | 2004年 | 2000年 |
視野率 | 上下90%、左右92% | 100% |
フォーカス | オート | オート |
測光方式 | 35分割SPC使用、TTL開放測光 | 21分割SPC使用、TTL開放測光 |
測距点 | 7点 | 45点 |
露出制御 | ・プログラムオート ・マニュアル ・絞り優先AE ・シャッター速度優先AE ・全自動撮影など | ・プログラムオート ・マニュアル ・絞り優先AE ・シャッター速度優先AE |
シャッター制御 | 電子制御式 | 電子制御式 |
シャッター速度 | 1/4000秒~30秒 | 1/8000秒~30秒 |
フィルム巻き上げ | オート | オート |
大きさ | 146.7×103.0×69.0mm | 161×120.8×70.8mm |
質量 | 585g | 945g |
電池 | CR123A×2 | 2CR5 |
生産国 | 台湾製 | 日本製 |
備考 | ・視線入力AF搭載 ・4コマ/秒の連続撮影 ・DXコード対応 | ・単体3.5コマ/秒の連続撮影 ・DXコード対応 ・防塵防滴性能 |
Canon製品の場合、EOSシステムEFマウントは、デジタルでもフィルムでも共通したレンズを使うことが出来る。そうすると必然的に表現の幅が広がるのである。ただ単にデジタル機種と同時にいくつかのレンズを持ち歩いていたところに、フィルム機種のボディのみを追加して持ち歩けばよいのだから。
たったそれだけで、デジタルとフィルムという表現の異なる選択肢が用意できるという訳である。最新のレンズをフィルム時代の名機に用いることが出来る事で、その可能性は大いに広がっていくものである。現代的な最新の光学技術が、フィルムというアナログの優れたる表現方法に更なる光明を差し込んでくれる事は想像に難くない。
Nikon FEとF3の比較、相互補完。
製品名 | Nikon FE | Nikon F3 |
発売年 | 1978年 | 1980年 |
視野率 | 93% | 100% |
フォーカス | マニュアル | マニュアル |
測光方式 | TTL中央部重点測光(SPD使用) | TTL中央部重点測光(SPD使用) |
露出制御 | ・絞り優先AE ・マニュアル | ・絞り優先AE ・マニュアル |
シャッター制御 | 電子制御式 | 電子制御式 |
シャッター速度 | 1/1000秒~8秒 | 1/2000秒~8秒 |
フィルム巻き上げ | マニュアル | マニュアル |
大きさ | 142×89.5×57.5mm | 148.5×96.5×65.5mm |
質量 | 590g | 715g |
電池 | SR44×2 or LR44×2 | SR44×2 or LR44×2 |
生産国 | 日本製 | 日本製 |
備考 | ・追針式露出計 ・緊急機械式シャッター付属 | ・液晶表示 ・緊急機械式シャッター付属 |
Nikonの場合も同様に、フィルム時代の名玉をデジタル本体に用いることが出来る。ただしこの場合には、すべてのレンズが使用可能という訳ではない。基本的にデジタルでもフィルムでも同じレンズを用いる際には、Ai対応のレンズが必要がある事には留意したい。デジタルにおいて、そうしたAiに非対応のレンズまでも含めてすべてのNikkorを用いる場合には、Nikon Dfなど露出計連動レバー可倒式のボディが必要になる。
それでも、Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8Sなどの素晴らしいレンズをアダプターを介さず、最新のボディに付けられるという事実は夢のような話である。フィルムが少しでも生き残るうちに、是非とも親から子へと受け継がれたフィルム時代のボディとレンズを活かしたい。押し入れに眠った大切な宝物をデジタルカメラとも組み合わせて、アナデジ世代としての特権を謳歌したいものである。
M42マウントのフルマニュアルで、奥深さを堪能する。
オールドレンズといえば、その代名詞ともなっているのがM42マウントレンズである。他社レンズとも汎用性の高いスクリューマウントを採用しており、工作しやすいねじ込み式のマウントである。この方式は電子化の潮流に抗いきれずに廃れてしまったが、それでもその魅力と輝きは現在でも十分だ。FUJICAのST801は、M42マウントを採用した機種として最新鋭といえる。
製品名 | FUJICA ST801 |
発売年 | 1972年 |
視野率 | 90% |
フォーカス | マニュアル |
測光方式 | TTL開放測光(SPC受光素子使用) |
露出制御 | マニュアル |
シャッター制御 | 機械制御式 |
シャッター速度 | 1/2000秒~1秒 |
フィルム巻き上げ | マニュアル |
質量 | 585g |
電池(露出計) | 4LR44、4SR44 |
生産国 | 日本製 |
備考 | ・ファインダー内、世界初LED表示 ・汎用性の高いM42マウント採用 ・EBCフジノンでは開放測光可能 ・他社製M42マウントでは絞り込み測光 |
M42マウントボディとしては、最速のシャッター速度1/2000秒を達成しているほか、自社製EBCフジノンレンズにあっては開放測光に対応。他社製レンズも勿論装着でき、絞り込み測光によって問題なく撮影可能。まさに夢のような機種といえる。マウントアダプターを用いれば、勿論このM42レンズ群も最新デジタルと最新フィルムの一眼カメラに装着できるものである。
しかも電池が無くとも作動するフルマニュアル機械式カメラでありながら、当時として最新のLEDという技術を搭載し露出計まで内蔵されている。この点についても利便性の高いモデルである。フルマニュアルカメラは、一つ一つの行為そのものが撮影者の意図によって行われるもの。それによって、写真表現としてもカメラが絵筆と同じような意味を持つ。その思い入れや奥深さが良い。
M42オールドレンズを、最新のデジタルとフィルムで。
デジタルとフィルム双方の最新鋭一眼レフカメラで、オールドレンズの名玉を用いる贅沢もある。手持ちのキヤノンEOSシステム、デジタルEOS 5D mark Ⅳ及びフィルムEOS 7sに「M42レンズ-EFマウントボディ」用のアダプターを用いて、M42マウントレンズを装着する至高に遊ぶ。使用するアダプターは、K&F Concept®社のマウントアダプターリングM42-EOSというもの。
この場合、個人的な環境であるかもしれないが、EOS-1Vにおいてはこの方法はエラーが発生してしまう。その為、このシステムにおいては用いられていないことも記しておきたい。
この方法によって、自動露出の恩恵を得ながらフォーカスだけを操作するという気楽さでデジタルとフィルム双方の表現を手にすることが出来るようになる。例えば分断された東ドイツ製レンズ、Carl Zeiss Jena社など当時の素晴らしいレンズを用いて、現代をスナップするという楽しさは計り知れないものがある。