NikonのFEは、すべての趣味や行動との相性が抜群に良い。ただ軽く、扱いやすいフィルム一眼レフというのみならず、もっと写真が好きになる。そんな特別な魅力あるカメラである。その使い勝手の良さから、多くの活力ある一般消費者達に愛されながら、勢いのある駆け出しプロ写真家達のタフな使用にも耐えた。そして今でも誰しもが、何となく無意識のうちに手に取ってしまうカメラである。
1978年に誕生したFE。その時代に駆け出し、これまでを支えた人々。彼らの熱量ある志は、彼らが手にしたカメラによって、これからも受け継がれていく。
ニコンFマウントにおいて、MFレンズには多くの名玉が揃う。手触りの良いレンズを用いて、フォーカスを手動で合わせるという気持ちの良さは格別である。そんなとき絞り優先AE搭載のNikon FEは、「レンズを楽しむこと」や「被写体と向き合うこと」のみに集中できるカメラ。持ち出しやすい気楽なカメラで、多くの出会いと撮影の楽しさを堪能したい。
Nikon FEという、シンプルでタフなカメラ。
FEは「シンプルニコン」というキャッチコピーが採用されていた。この機種は絞り優先AE、自動露出が可能であることが最大の特徴。MFカメラで写真を撮るという場合、フォーカスを合わせる事のみに集中できる利点はこの上ない。その行為自体が、よりシンプルなカメラであるといえる。ただしコピーの由来は、そういう意味ではなく電子回路のシンプルさが齎す安定感を指すのだという。
TTL中央部重点測光によって、的確に捉えられる光。適正露出を導き出してくれる安心感、信頼感のある露出計である。また各々の表現や肌感覚によっては、露出補正も可能。逆光などでプラス補正をかける事も出来る。更にAEロック機能も搭載されており、より撮影者の意図を反映した露出を得られる。写真は光表現であるから、その点に抜かりない性能を備えたFEへの信頼感は大きい。
またフィルムカメラの場合、主に表現性としてはレンズとフィルムが影響することになる訳である。そのように考えると、より直感的な撮影が可能であるNikon FEの使い勝手の良さは大きな強みとなる。時には、正月やお盆など帰省した際に家族写真をフィルムで撮影してみるのも良い。フィルム写真を撮るという点において、その敷居の低さは旗艦機のF3にさえ勝る。
ちなみにF3と同様に、このFEにも機械式の非常用シャッターが搭載されている。こちらは1/90秒固定ながら電池の無くなった際でも、シャッターが切れる安心感がある。またセルフタイマーやバルブも同様に機械式制御が行われており、信頼感を増す。
お気に入りの必定、誠意を感じるモノづくり。
このカメラは、機械式シャッターという訳ではなく、電子式シャッターが採用されている。その安定性を増すために電子回路のシンプルさが追求されている。それまでカメラ製造には用いられてこなかったリフローソルダリングというハンダ付け技術を採用。その上で、基板上の断線やショートの心配が殆ど無い質実剛健さを備えた電子制御カメラが誕生したのである。
更に撮影時の手触りや静謐さまでも配慮されている。巻き上げ機構にはボールペアリングが採用され、フィルムを装填しても感触の変わらない極めて滑らかで、力要らずの軽快なレバー操作を実現。シャッター機構には、ミラーの衝撃を吸収するエアダンパーやブレーキ装置が採用されている。その為、極めて軽快で静粛なシャッター操作が実現、手振れリスクの低減が図られている。更にはシャッター音質が分析され、より撮影者の心も軽快に撮影できるように配慮が施されている。
その操作感は、素晴らしく気持ちが良い。よりポジティブにテンポよく撮影が出来るのである。シンプルでありながら、一つ一つが追求された性能。ニコン社の拘りが、撮影者を無意識のうちに鼓舞するのである。そして、いつも何となくこのカメラを手にしてしまう。誰しもが軽快で心地の良い感覚を得られるカメラ、そこには設計開発者の拘りと願いが完全に作用。「なんとなく良い」という感想は、まさにニコン社の努力によって結実した思惑だったのである。
より直感的で、ポジティブ軽快なフィルム一眼レフ。
確かに柔らかく軽快なシャッター音。ピシャンという耳に心地の良い音は、オノマトペで表現できないような乾いた良き響き。機械を操作をし、またそこに人力が加わることによって得られた音。それは撮影者をより高揚させてくれるものである。ただ響くといっても、甲高く空気を劈くような音とは違い、自然でいて心地の良い音。それは昆虫や動物にとっても、警戒すべき音とは異なるものであるのだろう。マクロ撮影であっても、彼らが即座に逃げようとはしない。
またファインダー内の露出表示は、追針式露出計が採用されている。その為、より直感的な撮影が可能。例えば、アナログ表示とデジタル表示には、それぞれに長所が備わっている。それでもより直感的な理解に働きかけるのは、いつだってアナログ式表示である。時計や温度計、体重計など、それは常に感覚に訴えかけるもの。そうしてFEで撮影する軽快さを更に引き立てているのである。
その軽快さを担保しているのは、やはり質量が軽量である点も大きい。ボディのみで約590gという重さは、長時間撮影も苦にならない。Nikon F3が約700gであることを鑑みると、その軽さは十分利点に成り得る。視野率は約93%に留まっているが、その恩恵によって小型化が実現している。よりカジュアルで軽快さを重視するような場面では、常に持ち歩いていたくなるカメラなのである。
Nikon FEの作例
作例のフィルムは殆どPREMIUM400やFUJICOLOR100で撮影している。最高シャッター速度1/1000のため、炎天下での撮影などでは適切にISO感度を選択したい。しかし比較的絞りなどで対応できる為、そこまで神経質になる必要もないバランスの良いカメラである。
Nikon FEの使い方および外観
シンプルニコンというだけあって、面構えも特に目立った特徴のない昭和レトロな外観である。ただしユーザーインターフェイスは洗練されていて初心者でも使いやすい。機関部が電子化されているものの、その耐久性は高く故障も少ない。
背面には左上にレバーが設置されている。ファインダーからすると左側にある。このレバーは、電池の容量確認で使用する。レバーを引いて真ん中のLED電灯が赤く点灯すれば、電池容量に問題がないことを確認できる。もし消灯したままであれば、電池交換が必要である。
電源の入れ方。ON/OFFスイッチ。
完全に巻き上げレバーを下げると、電源がOFFされる。効率的、直感的な操作である。
巻き上げレバーを手前に引くと、赤●が見える。この状態だと電源ONである。
フィルム装填方法。スリットに注意。
巻き戻しノブをストッパーを抑えながら、上方向へ持ち上げる。そうすると裏蓋が開く。
フィルムを挿入したら持ち上げていた巻き戻しノブを下方向へ押し下げる。そうするとフィルムに軸が挿入されて固定される。
次にフィルムのベロを少しだけ伸ばす。そうしてスプールのスリットにベロを差し込む。巻き上げレバーの下方軸をスプールと呼び、この間の隙間に差し込む訳である。これが出来ていないと、セッティングが行えない。
巻き上げレバーを押し込み、フィルム先端をスプールに一回転程させる。巻き上げレバーを操作するか、もしくは下方の歯車をギリギリと回しても良い。一回転程してフィルムの裏面が少し見えたら裏蓋を閉じる。
シャッターの切り方。フィルム装填後にも。
シャッターの切り方は簡単。巻き上げレバーでフィルムをコマ送りする、そしてシャッターを切るという2段階作業である。フィルム装填直後の場合には、フィルムの枚数カウンターを1目盛りにセットする必要がある。
柔らかなシャッターフィールは気持ちが良い。更にシャッター音も快音が響く。
フィルム装填直後には、まだ撮影準備が整っていない。空シャッターを数度切って、フィルム送りすることでセットが完了する。
空シャッターをきって、フィルム送り。カウンターの目盛り1になるまで繰り出す。そうして、ここからが写真撮影の本番。
フィルム回収の方法。撮り終わったら。
撮影し終わって、シャッターボタンを押し込めなくなったらフィルムを回収する必要がある。巻き戻しボタンが底面に備わっており、これを一度押し込む。
次に上部の巻き戻しクランクを矢印方向に巻き上げていく。回転させていると少し圧力がかかる。フィルムが全て巻き上がると、少しカチャという音がして巻き上げクランクがずいぶん軽くなるのを目安にするとよい。
完全に巻き上げ終わってから、巻き戻しノブを引き上げて裏蓋を開ける。そうしてフィルムを回収する。回収し終わったフィルムは、写真店で現像を依頼するのみ。
AEロック。測光と露出固定の方法。
セルフタイマーレバーを内側に倒す。画角内の露出を合わせたい場所で、レバーを内側に倒したままで撮影したい構図でシャッターを切る。そうするとAEロックしたままのシャッター速度で、撮影することが出来る。
セルフタイマーの方法。
セルフタイマーレバーを外側に倒し、タイマー設定を行う。そこから手を放すだけではカウントは開始されない。
セルフタイマーレバーを任意の時間に内側に倒すと、設定されたタイマーが動き出す。機械式タイマーの動く音がする為、分かりやすい。
電池の交換方法。使用電池は、LR44ボタン電池。
電池の蓋はコイン式で、不意な脱落の心配も薄い。LR44規格のボタン電池を2個使用する。もしも電池が切れた際でも、機械式シャッターは作動する。またこの企画の電池は、多くの小売店で手に入れやすいもの。その点、旅先などでの急な電池切れの際も安心感がある。
レビュー:信頼性は抜群、シンプル革命。
このカメラは、上位機種に対する下克上と言っても良いほど、素晴らしいポテンシャルを備えている。プロの使用にも耐える緊急機械式シャッターの存在。音にまで拘られた設計。それにシンプルを追究された電子基板。それらによって大変、実用に耐える信頼性の高い機種に仕上がっている。新品当時、数多のプロたちも愛用していたNikon FE。ニコンの技術開発陣は、素晴らしい機種を世に送り出してくれた。
たとえ古くとも、故障しようとも、修理を続けて使い続ける。または修復して復活させる。そんな風にして受け継がれるカメラとしての信頼は、機械式カメラの代名詞のようなものである。しかしFEは電子回路を持った電子制御式カメラだとはいえ、数十年と使用できる耐久性を備えている。カメラの中には経年劣化による電気系統のトラブルから液晶の表示などに問題が現れる機種もある。
しかし、このカメラにはアナログ表示の追針式露出計が装備され、シャッターの制御においてもシンプルな回路設計が施されている。そのため電子制御式カメラとしては、極めて高い耐久性を保持。想定されたシャッター耐久回数は、上位機種に譲るとしても、一般的な使用における頑強さには舌を巻くところだ。
シンプルであるという理は、永久に普遍でありながら、常に新しい。長い間を共に過ごす。そうしてこれまでを受け継ぎ、またはこれからを引き渡す。そんな風に大切な時を刻むカメラ、それがニコンFEなのである。
FEの特に優れたポイント
一眼レフカメラとして優れた軽快さは、特筆すべきもの。その重さ約590gという物質的な軽さは十二分に武器になる。旅先などでも何ら不自由のない軽量感は、コンパクトフィルムなどと併用しても全く問題にならない。フラッグシップ機のNikon F3と比べてみても申し分のない性能を誇る。初心者から熟練者まで使いやすく、誰しもが満足する事この上ないカメラ。
それに追針式露出計が搭載されていることにより、更に直感的な撮影を可能にしている。デジタル表示よりもシャッター速度を把握しやすく、撮影の際に余計な思考を省くことが出来る。現代においては、やはりアナログにもデジタルにも利点と魅力がある。
更に電子制御式カメラであるにも関わらず、その耐久性の高さも特筆すべきものがある。経年劣化によって電子基板の問題が発生してしまう精密機器も多々ある。しかしこのカメラの場合、大切ながら長いこと押し入れにしまわれていたようなものでも、通電後に大した問題が起こらず、すぐに撮影が可能であったりする。それだけに自ずとその信頼感は更に高まるのである。
FEの苦手とするところ
多少苦手とする部分が、視野率が約93%であるという部分であろうか。しかし基本的にスナップや記念写真などでは特段問題になることは無い。ちなみにファインダー倍率が約86%な点で、眼鏡装着時に視界が多少ケラれる可能性は残る。
ファインダー内の追針式露出表示は、日中の軽快で直感的な撮影を可能としてくれる。しかし暗がりでの撮影では、露出が読み取りにくいという性質がある。この点はやはり液晶のデジタル表示へ軍配が上がる点である。
Nikon FEの主な仕様
発売年 | 1978年 |
マウント | ニコンFマウント |
視野率 | 93% |
フォーカス | マニュアル |
測光方式 | TTL中央部重点測光(SPD使用) |
露出制御 | 絞り優先自動露出、マニュアル |
シャッター制御 | 電子制御式 |
シャッター速度 | 1/1000秒~8秒 |
フィルム巻き上げ | マニュアル |
大きさ | 142×89.5×57.5mm |
質量 | 590g |
電池 | SR44×2 or LR44×2 |
生産国 | 日本製 |
備考 | ・追針式露出計(アナログ表示) ・緊急機械式シャッター付属 |
コラム:写真は、すべての趣味と相性が良い。
写真は主たる趣味に成り得るけれども、従たる趣味とも成り得る。写真に残そうと考えた時、やはりそこには撮りたいモノや場所や人物が存在しているはずである。撮影するという事実は、それがどのような場面でさえ、そこにはやはり残すべき価値が存在している事になる。
例えば、山が好きならば、山岳風景や登っている人物にスポットを当てた写真がきっと好みであるはずだ。野鳥が好きならば、つぶさに鳥を観察し一番魅力的な場面を切り取れるはずだ。そうしてあらゆる趣向に沿って、写真はそこに介在する媒体として存在できる。そのように考えると、写真やカメラ趣味はあらゆる行動との相性が良いことになる。
写真はその趣味を補完する事も出来る。そのものを趣味であるという事も出来るが、やはり写真に収めるという行為は、それ自体に残すべき価値や衝動があったという事である。そういう意味においては写真撮影は、あらゆる人々がマッチングできる従たる趣味であるという事が出来るのである。その時の感動を保ち、また発見を深くする。それこそが写真が本質的に備えた魅力でもある。
つまり老若男女を問わず、古今東西を問わず、ありとあらゆる人々が楽しむことの出来るもの。それが写真というものなのである。それは決して高尚なものでなくして、敷居の最も低いものである。誰しもが写真という媒体を通して、ある時は過去の感動に浸り、ある時は他者の経験を共有する。そうしてこの世界をより豊かなものとしてくれるものである。
そんなときマニュアルフォーカスで被写体により集中でき、どんなところへでも軽快に伴うことの出来るFEのようなカメラは、心強く頼もしい相棒として活躍してくれるに違いないのである。
ブログ:旧奈良監獄、レンズAi Nikkor 105mm f/2.5Sで切り取る。
曇天の旧奈良監獄、明治建築としての貫禄。間違いなく日本の職人技術が、美的で近現代的な建築を造り上げた。西洋列強から多くの先進技術を取り入れた日本。建築であれ、光学機器であれ、ものの見事に胎児として孕み、育て上げた。それらを撮り、使うという幸運に与る。
Ai Nikkor 105mm f/2.5Sの作例は、すべてネガフィルムFUJIFILM フジカラー PREMIUM 400。 比較的望遠のレンズを装着しても、軽量なボディのNikon FEならば軽快に撮影できる。フィルムカメラで在ればこそ、旧奈良監獄の雰囲気まで投影できる。
ニコンFEによって、意志までも受け継がれていく。
『正月カメラマンは、これからは君だよ。』
フィルムカメラは、時を経て価値を持った。それは物質的な価値というよりも、人の思いを乗せて伝えるという遺産的な価値である。その時代を背負ってきた人々の傍らで、そんな彼らの人生を見つめてきたカメラは、その事実を以て特別なる存在である。
ある時は普段の生活を捉え、ある時は人生の節目を彩り、ある時は今は無き形を遺す。そうして大切に用いられてきたカメラには、人の心に寄り添い、共にしてきた歴史が詰まっている。良いものは、いつだって親から子へ、子から孫へと受け継がれていくものである。そうして何時しか大切な思いは、伝統となり常識となって培われていく。その系譜には先人たちの魂が宿るのである。
家族の歴史に常に居合わせた証人のようなカメラ。ハレの日、家族の節目を記録する役割と共に、その襷が次の世代に受け渡された。時代の潮流はアナログからデジタルへと変わろうとも、そんなFEには明らかに代えがたい価値が宿ってる。大切にアルミケースに保管され、説明書や保証書までも残されたカメラ。再び自らクリーニングし、メンテナンスを施す。
フィルムで撮られた家族の集合写真は、毎年毎年と印刷されている。茶色く日焼けたアルバムに、こうして今年もまた、一枚の写真が加わった。
ピークデザインのストラップで、快適フィルム生活。
ニコンFEのような小柄なボディには案外、カフのような手首ストラップが似合ったりする。街中でぶら下げるより、撮るときだけに集中して取り出すような使い方は、周囲に対しても威圧感も無い。時と場合によって、通常のカメラストラップと使い分ける。そんな風にして流動的、可変的に使い方を変えてみるのも良い。
こんな風に、ストラップを取り外せるようにすると複数台持ち歩いたときにでも便利。カメラバッグ内が煩雑にならずにスッキリとして、出し入れがしやすくなる。ストラップは、使い勝手によって2種類ほど用意するのも手である。収納場所を別にしておくことで、メイン収納部が乱雑にならず、ストラップ同士が絡まったりする可能性を排除できるのも良き点。
アンカーリンクスであれば、既存のストラップをそのままピークデザインの利便性の高いシステムに組み込んでしまうことが可能。古き良き名品をそのままに、最新の使い勝手の良さを導入できる喜びは深い。