コンタックスTVS2はCONTAXの高級コンパクトフィルムカメラ。Tブランドを冠し、またその名前の由来ともなっているCarl Zeiss社製のズームレンズVario Sonnar(VS)28-56mm/F3.5-6.5を搭載。ズームとも思えぬ美しく魅了するその描写にはいつだって息を飲む。
昨今人気と名声が益々高まっている高級コンパクトフィルムカメラ。それら全体を見回してみてもズームレンズを搭載しているものは殆ど無く、このコンタックスTVSシリーズは希少な存在である。
高級コンパクトフィルムのラインナップにおいてコンタックスのT2やT3といえば、その界隈では言わずと知れた存在。しかしその一角に隠れたるCONTAX TVSⅡもまた同様に名機である。その性能は彼らに決して引けを取るものではなく、むしろ並び立っていると言っても過言ではない。
CONTAX TVS2は旅をもっと面白くする。
写真を撮影しようとすると頭にまず浮かぶのは機材選びである。一眼レフやレンズを持ち歩くという行為は、重量が文字通り重くのしかかる。旅行や町歩きの際に結構な機材を背負って長く歩けば、案外身体に負担がかかっていた事を感じるものである。そこで考えに至るのは、より軽量化できないだろうかという事。そんなときコンパクトカメラは素晴らしき選択候補になる。
CONTAX TVS2の真骨頂は、上記のようなときに最も発揮される。何故なら一台で何役もこなす程のバイタリティを備えているからに他ならない。高級コンパクトフィルムならではの描写力。標準域を広くカバーする焦点距離のズームレンズ。そして小型でありながら全自動であるが故のお手軽さ。これらを全て満たしているのはこの製品の特権だ。この分野において無双の存在なのである。
しかも28mmから56mmと2倍率をカバーしているのであるが、これは以前から人の視野と大体同じくらいだと言われている焦点距離に近い。旅行や町歩きでは、この感覚が最も重要になる気がしている。スナップで撮りたい画角をカバーし、AFを搭載している事で、その用途での需要がほとんど満たされることになるのだ。
実際の旅行先では、ポケットにTVS2だけを忍ばせて手ぶらで歩き回ることも多く、その信頼性は高い。しかもそんな気楽な気持ちでいると、偶然の良き出会いが多く待ち受けていたりする。このカメラは旅をもっと楽しく面白いものにしてくれるものなのだ。
このカメラは「作品を作るカメラ」というCONTAXの基本思想を継承…中略…より使い易い35mmレンズシャッター式カメラです。
CONTAX TVS 取扱説明書 前文
ただ便利なだけのカメラであるかといえば、そういう訳では断じてなく、コンセプト通りに自分の意図を「作品」へと昇華する事も出来る素晴らしいカメラなのである。そういう意味では、お手軽でありながら欲張りなカメラでもあるということが出来る。
“写ルンです“というカメラも単焦点ではあれど、お手軽カメラではある。TVS2は、その上位互換としての位置づけかと考えていたけれど、いやいやそんなことは無い。このカメラには多くの潜在能力が秘められていて、本格的な撮影も可能な”出来ルンです“だったのである。
レンズの魅せる空気表現が好い。
TVS2の表現として明らかなのは、“柔らかで透明感のある明るい雰囲気”を捉えるのが凄まじく得意であるという事。同じく高級コンパクトフィルムカメラでもあるMinolta TC-1と比べてみても、その思想は明らかに異なる。同じフィルムを使い、同じ測光ポイント、同じ絞り値であるにも関わらず、適正露出としてシャッター速度を遅めに算出する傾向があるように見える。つまり理論上、より明るい写真となるはずだ。
しかしそれ以上に、色乗り感を含めて雰囲気の捉え方が極めて良い気がしている。印象論ではあるが、何しろ他のカメラには無いような特殊性が見受けられるのである。この空気表現がとても素晴らしく、更にこのカメラの好感度を高めている。それはやはりツァイスレンズのバリオゾナーを搭載している事も描写力を高めている要因なのであろうか。
カール・ツァイスはコントラストと解像度の関係性をグラフ(MTF曲線)として、 レンズの性能をより客観的に示した事で知られている。つまりレンズの性能は、その関係の中で決まるという事を世に広く知らしめた。そして同社製品は、高コントラスト、高解像度という二本柱の特徴で成り立っている。
閑話休題。この美しき描写には、盲目的にハマってしまいそうになる。そんな魔術的素質を秘めており、一度好きになってしまうと暫くここから抜け出せそうにない。
旅を思い出として残す。タイムスタンプ、デート機能。
実はコンタックスTVS2には、TVS2Dというデータバック付きの製品も存在する。このデータバックによって日付のタイムスタンプが可能になる。
旅の思い出というのは、その場の空気感を残すだけでは物足りない。友人や家族と赴いたとしたら、やはり彼らの記念写真やポートレートを撮影したい。そんなとき日付の印字を入れると非常に面白い。あの時間、あの場所の空想に浸り、脳内はタイムスリップ。
その後にアルバムに入った写真プリントを見返すと、グッとあの時の記憶に引き込まれる。コンタックスTVS2Dの良いところは、この日付を刻印するデート機能がデフォルト機能として搭載されている点だ。もしもコンタックスTVS2のノーマルを購入したとしても、データパックは別売りで装着できるのであるから特に問題は無い。
例えば、同じ高級コンパクトフィルムカメラであるミノルタTC-1には非搭載であるし、コンタックスT3であれば、T3Dという後期モデルを購入しなければならない。そういう訳であるから、この点でもコンタックスTVS2Dを購入する事で、旅をもっともっと面白くする。「最高の思い出カメラ」とすることができる。
コスパが極めて良い高級コンパクト。
さてフィルムカメラの場合、過去の名機を今手にせんとするならば、中古市場にお世話になるしか方法は無い。しかしその性能が魅力的な高級コンパクトフィルムカメラは、軒並み価格が高騰しているのが現状である。
そんな中にあって、手頃な価格帯で購入できるコンタックスTVSシリーズは、コストパフォーマンスの面から見ても素晴らしい逸品。特にTVSからAF性能やファインダーの明るさや最短焦点距離の短さなど順当に改良されたTVS2は、とても購入し甲斐のある製品だ。
高級コンパクトと言われるだけの上質で上品な面構えも素晴らしい。チタン外装にファインダーやシャッターボタンには硬質サファイアガラスが用いられている。こうしてバブル期の贅沢な面影を引き継いでいる所も所有欲を満たしてくれるものとなっている。
同じコンタックスの高級コンパクトフィルムの中でも、T2やT3の市場価格は段違いに跳ね上がっている。それにも関わらず、TVS2は未だそれらの半分以下の軍資金で比較的状態の良いものを手に入れることができるのだ。それはとても幸運な事だと思える。
CONTAX TVS2の作例
一台で何役をもこなし、ポケットの中に収まってしまう優れもの。手ぶらでスナップしたいという思いを結実させるカメラ。作例は全て、Fujifilm PREMIUM400というネガフィルムで撮影。
TVS2の使い方、外観。
画角が非常に分かりやすいファインダー。通常は黒枠で画角を確認。近接撮影時の視差を黒線で説明してくれる。28mmの最広角側(0.5mから1m)が中間の黒線となり、一番狭い黒線が56mmの最望遠側(0.5mから1m)で撮影する際の画角。●という表示でピントが合焦していることを示す。右側の数字はシャッター速度である。非常に見やすいファインダー表示。しかも、楕円形の中央測光部。水平も取りやすく、撮影時に心配がない。
持ちやすく、所有欲を満たす外観。それに美しく洗練されたプロダクトデザイン。彼の登場はバブルが終焉して数年、倒産も相次いだ1997年という時期ではあったけれど、バブル時期に発売されたCONTAX T2などのデザインを引き継いだものとなっている。ある意味で遺産。とても簡単なフィルム装填。自動巻き上げで安心。
電源のON/OFF。ズームを使う。
TVSではレンズキャップを撮影者が閉じるという手間があったが、TVS2ではその点が改良され、自動でレンズが幕によって保護される。スナップとしての利便性が向上した。
ただズームリングを回し、オレンジ線まで繰り出すだけで電源ON。広角端、28mm。下げれば電源OFF。
ズームリングが止まるまで回し、繰り出すと望遠端。58mmまで寄れる。
ズームリングを回すだけで、起動と同時に望遠端までサッと用いることが出来る。素晴らしくユーザー視点で考えられた点。
簡単なフィルムの入れ方。自動巻き上げで手間いらず。
コンタックスtvs2の使い方は非常に簡単。フィルムを装填するには、❶開閉レバーを下に引いて蓋を開ける。❷そこにフィルムを装填し、❸蓋を閉める。たったこれだけで撮影が可能。
❶レバーを引き開蓋する。
❷オレンジ線を目安にフィルムを装填する。
❸蓋を閉じて機械音が止むのを待つ。
フィルムの撮影が終わり次第、自動的に巻き上げがはじまる。ただ後は同じようにレバーを引き、巻き上げ済みのフィルムを回収するだけ。
絞り値の変更も直観的。
手前のコントロールリングを用いて、プログラムオートと絞り優先AEの選択。それから絞り優先AEの場合の絞り値を設定することが出来る。
操作は直感的でとても分かりやすい。リングは少し硬めに設定されている。
デート機能を使う。思い出写真に変身。
使い方は簡単。背面のMODEボタンで日付の入り方を何回も押してセレクトするだけ。好みの日付の並びに変更することが出来る。
フィルムの途中でも、モード変換は可能。消したり入れたり、好きなように撮影。
電池交換はコインで楽々。電池はCR123A使用。
電池消耗は殆どない。一年以上は持つ省エネ具合。フィルムカメラの良いところでもある。
使用する電池はCR123A。蓋を閉じるときは押し込みながら捻じる。
カメラ底部から電池を挿入する。コイン方式によって、いつでも電池交換が可能。自然に蓋が開閉されることが無い為、安全、安心。
フィルムの確認窓とDXコードが嬉しい。
カメラの背面に設置された小窓により、フィルムの存否を確認することができる。これにより蓋を開け感光させてしまったり、空のシャッターを切る心配が減るのである。
ほんの些細な部分ではあるけれど、これがあるとないとでは、運用の際の利便性に雲泥の差が出る。写真の失敗が減るという意味では、安心感も増すという事。またフィルムのDXコードを読み込み、ISO感度などは自動設定してくれる。フィルムに関する失敗の心配も少ないカメラである。こうして更に持ち出しやすいカメラとなっている。
レビュー:CONTAX TVS2で感動にズーム。
足を使う単焦点こそ至高のものであり、ズームは甘えであると捉えられる事も往々にしてある。しかし足を使うだけでは、その場限りの一瞬の感動をモノにできない事もある。
時間だけは誰にも止められない。素晴らしい光景のその一瞬を切り取りたいと思ったとき、足を使って近寄り狙いに行く。するとその感動とは異なった印象の写真になっている事がある。それに気づき急ぎ戻っても、それもまた似て非なる印象の写真が生まれてしまうのである。
そうした経験則によって、感動を収めんとするならば、”脊髄反射のように撮影するくらいでなければならない”と思うようになった。少なくともその場で一枚は、シャッターを押し込む必要性がある。
無論、足を使って写真を撮る事は至高の行為。ズームを用いるからといって、足を用いないというのは面白みに欠けるというもの。だからと言って、その場からしか切り取れぬ感動を収められなければ、それこそ本末転倒というものでもある。
例えば高低差などがあったり、場所の制約、被写体同士の位置関係、背景などによっては、その場から狙う事が最上の選択であったりする。そこで単焦点の望遠レンズを取り出すというのも、時間尺度の問題点があるのでは無いだろうか。更にはその荷物の重さは、行動自体を制限しはしないだろうか。
そのように考えると、ズーム搭載の高級コンパクトフィルムカメラであるTVS2は旅行スナップにおいて大きく可能性が開けている。ズームという甘えは、結果として写真の可能性が増すことになるのだから。
TVS2の特に優れたポイント
このカメラの長所は何と言っても柔らかく、透明感があり、明るく、味わい深く、コントラストに富むんでいるところ。そうした表現性に優れていて、かなりの描写力がズームレンズで得られるというのは驚きである。
それからNDフィルターを付けられる事で、ISO400フィルムなどを入れておけば天候を問わず撮影できる。そんな信頼に足るアベレージヒッターである。ちなみにTVS2のフィルター口径は30.5mmである。同じ口径のコンタックスのT3などとは違って、アダプターが不要な点も嬉しい。
TVS2の苦手とするところ
逆に許容範囲ではあるが、同じく高級コンパクトフィルムカメラのMinolta TC-1やCONTAX T3と比べると大きく重いことが玉に瑕であろうか。
Minolta TC-1やCONTAX T3と比べると一回り大きい。
プロダクトデザインがとても良い。しかし、凸部が少し大きさに反映される。
またピント精度が向上したとはいえ、迷うことがある。また独立して測光を行えない。その為、表現者の思想や意図した雰囲気を写真へ反映させるため、露出補正の±操作が重要な要素となる。しかし彼を知り己を知れば、百戦危うからず。大した問題にはならない。
CONTAX TVSⅡの主な仕様
発売年 | 1997年 |
レンズ | Carl Zeiss Vario SonnarT* 28-56mm F3.5-6.5 |
測光方式 | 外部測光方式(SPD素子使用) |
露出制御 | プログラムオート、絞り優先自動露出 |
シャッター速度 | 1/500秒(プログラムオート時1/700秒)~16秒 |
大きさ | 123x67x45.5mm |
質量 | 375g |
電池 | CR123A |
生産国 | 日本製 |
備考 | ・ボディにチタン使用 ・フィルムのDXコード対応 ・ズームレンズ搭載 ・アダプターなしでフィルター、フード装着可能 |
コラム:灯火をともす。CONTAX TVS2と漫遊の旅。
旅行といえば、その土地土地の観光地へ赴きたい。そこは風土、風俗といった、歴史が少しづつ紡いできた形象を目の当たりにできる所でもある。ある意味では表の面差し。それを全く見ぬというのもそれはそれで侘しい気もする。ただし何も考えずに、その土地を散策する面白さは一つの醍醐味。まるで闇夜に灯りをともすように、少しずつその場所に鮮麗な色彩が足されていくような小気味の良い気持ちになる。
漫遊に浸り、小さな発見を繰り返す喜びは何物にも代えがたい。確かに地元民にしか見えぬ、分からぬことも多々ある。しかし同時に余所者でもある旅行者にしか見えぬ、分からぬこともきっとあるに違いないのである。
勿論、同じ国であるからには、同様の価値観を共有している部分も大いにある。しかし意外にも、己の当たり前が通じないという厳然たる事実に気が付くのである。それは地元、住む土地のほんの近所の事でさえも同様の事。そこに溢れる小さな発見は、大きな感動となって心を満たしていく。地元民が知らない土地土地の面差しも、巷には案外埋もれていたりする。
旅では「歩く」行為によって、益々そうした発見や感動を得る機会が増すような気がしている。見る、聞く、話す、嗅ぐ、触る。あらゆる行為が五感を刺激し、それによって記憶が鮮明になる。歩きながら思考する行為は、明らかに脳を活性化。そこに活力が漲る。漠然とした考えが纏まっていく。知らぬ土地に赴くと、身近な問題の解決への手立てになる。
写真はその際、発見や感動を入力し出力する。あらゆる行為との相性が良い。小さな喜びを積み重ねることで、心の豊かさの享受するものである。それがあればこそ、その観察眼を日々少しずつ養うことが出来る。
とはいえ歩く行為は、可能な限り身軽であるのも重要なポイントであると言えよう。そんなときコンタックスのTVS2は最高の働きをしてくれることこの上ない。一台でその諸発見の殆どを網羅できる安心感。宿などに荷物を一旦預けて、身軽になってから界隈を散歩するのも良い。何かあれば直ぐにでも取りに帰れるのだから。そうしてまた新たな土地に灯火をともしていく。
ブログ:唐津の城下町×コンタックスTVS2
城下町・唐津に二日ほど滞在。海と川と山に囲まれた日本の街。常に変わりゆく街の形をフィルムに残す。誰かの日常が誰かの非日常。そんな不思議な感覚に襲われる。
初春の日本海側。曇り空がその季節を反映しているようだった。霧雨も降る。しっとりとした空気感をもTVS2の確かな描写が捉える。その時の気持ちと同様、雰囲気も明るい。
旅における、フィルムとデジタルの関係を探りて。
人の目や耳は不思議なもので、見たいものを見て、聞きたいもの聞く。そんな風に案外曖昧なもの。時に脳はその情報を整理し、物事を捨象し、見せて聞かせてくれるものである。
フィルム写真も人と同様の面があるように感じている。その場、その人の雰囲気や空気感までも大切に落とし込める。それはフィルムの自然的な反応が、成し得る業でもないだろうか。
デジタル写真はとても精細に物事を語ってくれる。人の目が捨象してしまっていた部分も客観的に、冷静に理解することが出来る。それは、ありのままの世界を見せてくれるのである。
旅をフィルム写真で残すメリットは、その時の主観で当時を振り返る事が出来るというもの。逆にデジタル写真で残すメリットは、客観的な情景で物事を振り返ることが出来るというもの。それぞれは、そうした表現なのではないかと実感し、学んだのである。
フィルム写真を見て、過去に浸ると感情までも思い起こされる。逆にデジタル写真を見て、こうまで美しい景色であったのかと感嘆する。そうしていずれの場合も感涙、欣幸に至るのである。こうして現代においては、二つの選択肢を持って表現することが出来る。この幸運に包まれながら、カメラを友として、人生という旅路を満喫せんとするところなのである。
ピークデザインのカフリストストラップで利便性向上。
コンパクトカメラはピークデザインのカフリストストラップを付けたときの利便性が素晴らしい。アンカーを複数のカメラに付けておくだけで、一本のストラップのみですべてのカメラに対応できる。場所を取らないという点や見栄えの点からも洗練された製品であるということが出来る。
またコンパクトカメラに付属するストラップは細長く、若干耐久性に対する不安もぬぐえない。しかしピークデザインのこのアンカーを使用するだけで信頼感も向上する。TVS2では、ストラップ穴も比較的大きく、そのまま使用することが可能。