写真趣味に興じ、動物や風景写真に傾倒すると、食指が動きがちになるのが双眼鏡という代物である。動物写真の場合、被写体を捜さんという時に遠くは点ほどの対象を探さなくてはならず、まずは雰囲気や違和感といった気配に精神を研ぎ澄まさなければならない。
そんな時に木立や岩石などは、一瞬ながら見間違える事も多い。そこで遠くの対象物を素早く観察することが出来れば、自然写真に資する事この上ないというものである。もしも写真趣味でなくとも、ただ観察することを楽しむだけでも十二分に価値ある時間となる。Nikonの8*30で現行機の8x30EⅡは、界隈では名品との呼び声も高いポロプリズム式双眼鏡である。
ニコンのスタンダード8x30Eは、本格的な入門機。
どうせ持つなら良いものを。ニコンの歴史は1917年、双眼鏡の開発に始まった。その中で同社が製造する8×30の双眼鏡は、数十年という長きに渡ってモデルチェンジしながらもロングセラーを続けるモデルの一つ。現在販売されている8x30EⅡもまた、日本で製造され続けている。解像度も高くシャープな絵、素晴らしく広視野を得られ、比較的明るい。その見え味は良く、同価格帯では得られることの無いであろうパフォーマンスを実現してくれるのである。
双眼鏡に興味を持った際に、すぐに手に馴染む感覚も良い。また中級機として、これ程までに充実した機種を手にする事の出来る喜びは大きい。ポロプリズム式特有のクラシカルな見た目も良く、一生モノとしても大切に付き合って行く事の出来る名品である。この魅力にどハマりしてしまえば、次なる展望も開けてしまうという意味においては、撒き餌のような双眼鏡だ。
自然観察、バードウォッチングをもっと楽しむギア。
双眼鏡を用いると、写真の被写体を探すときにも便利。野生動物を探す時の苦労も軽減。時には双眼鏡だけを用いて生態を観察。ある程度の行動を見極めてから、撮影モーションに入るというのも次へと繋がる手立てだったりする。最初から望遠レンズを向けてしまうと、明かに警戒感を煽ってしまう場合もある。そんな時に重宝するのが、車の中などから遠く観察する時間なのである。
野生動物の場合、少しだけ時間をかけて佇み、相手の警戒が緩んでから撮影に移るというのも良い。多くの場合、そのような時にこそ、良き出会いが待ち受けていたりする。動物写真家の岩合光昭氏によれば、彼が猫や動物を撮る際にも、同様に臨んでいるのだという。その際、双眼鏡という道具は一眼レフカメラに比べれば、特段威圧感も少なく実に都合が良い。
同時に8×30であれば、醸し出す雰囲気も凄みある迫力を備えている訳でも無い。人にとっても動物にとっても警戒されにくい見た目。自然観察にとっては、丁度良いコンパクト感も備えている。重量8×30Eで520gであるし、8×30EⅡで575gであるから、長時間の手持ちも楽々と言った具合である。であるからこそ、カメラ機材と同時に持ち出すギアとしては、非常に利便性の高い、性能と使い勝手の均整がとれた素晴らしき製品であると言える。
コンサート、スポーツ観戦。マルチに活躍する、双眼鏡のある生活。
ただ自然の中で用いるという点において、少しだけ気にかかる部分があるとすれば、窒素ガスを充填してあるような防水仕様でも防曇構造でも無いところ。そのような意味において、最新技術が織り込まれた同じくニコンのモナークシリーズのような多用途に活躍できる先進性、ダハプリズム式の為せる小型で軽量なボディもまた魅力的に写るところでもある。
双眼鏡の使い道といえば、このような自然観察を思い浮かべるところであるが、意外にも活躍するのがコンサートやライブイベント、スポーツ観戦での使用である。または、ミクロ観察まで可能なモデルであれば、美術鑑賞などでも十分活躍する。
はじめての双眼鏡、おすすめの選び方。
双眼鏡選びでまず勘案すべきは、どのような使い方をするかという点。夜間での使用を考えると、レンズの明るさや手振れ補正の有無なども勘案したい部分である。また主に手持ちか三脚を用いるかによって、倍率や重さなども重要になる。しかしながら、最初に選ぶものとしては、多くの場面で幅広く運用する事が出来る双眼鏡であるほうが面白い。
様々なメーカーや機種が存在しているが、例えば、ニコンのポロプリズム式双眼鏡、スタンダードの8×30シリーズであれば、最初に手にする双眼鏡として、中級機として、本格的な機種として、その楽しさを十二分に楽しむことが出来る。
双眼鏡の倍率と対物レンズ有効径、実視界とは。
この8×30という機種の場合、倍率は8倍。ここで言う倍率というのは、人間の視野を1倍として換算される。カメラで言うところ35mmフィルム換算で50mmの焦点距離を1倍とする。8倍という事は、つまり35mmフィルム換算で400mmという超望遠域のことを指している事になる。もしも一眼レフのレンズで、この焦点距離を得ようとすれば中々に威圧感のある装備となる。
勿論、双眼鏡でも倍率が上がれば上がる程、手ブレに対して脆弱になる。手持ちでの使用を考えれば8倍から10倍程度が一般的であり、必要十分な焦点距離である。逆に言えば、倍率だけが高くとも双眼鏡として実用性を帯びない。性能のバランスを良く見て購入する必要がある。Nikon 8x30EⅡであれば、その持ちやすい形状や重量などとの兼ね合いから鑑みても、手振れに対処しやすい。
また対物レンズ有効径が大きければ大きいほど、集光力がある事になる。つまり、明るい視野と解像力が確保されるのと同時に、本体自体も大きく重くなる。本格的な自然観察などで使用される双眼鏡の場合、30mmから49mmのものが比較的性能のバランスが取れており、手持ちでの使用も一般的。
もっと大きな対物レンズ有効径となれば、夜間の天体観察などに用いられ、場合によっては三脚使用が必要になる事もある。しかし双眼鏡を開発、販売しているメーカーは、往々にして光学機器メーカーとしてカメラも同時に作っていたりする。当然ながら、手振れ補正という機能が付いているモデルも存在することも付記しておきたい。
レンズが明るいものや手振れ補正が活かせるのは、コンサートやライブイベント、スポーツのナイター観戦など多岐にわたる。実に多くの使い方が出来る双眼鏡ライフを楽しみたいところである。
実視界と見かけ視界。Nikon 8×30EⅡは、広視野双眼鏡。
また双眼鏡には、実視界と呼ばれる角度も併せて表記される。実視界とは、同じ場所から見える範囲の事を示しており、この角度が大きければ大きいほど、双眼鏡で覗いた時の視野が広がる事を示している。現行機の8x30EⅡの実視界は、8.8°であるから、旧モデルの8.3°からすると視界もより広いという事になる。
この実視界が大きければ、動く被写体にも対応しやすく、対象物を見つけやすくなる。ちなみに倍率が高くなれば高くなるほど、当然ながら同じ場所からの実視界は小さくなりがちである。
しかし、「倍率*実視界=見かけ視界」というものが導き出せる。この見かけ視界が大きくなればなるほど、高倍率でも実視界が広くなる。ちなみに標準視野が見かけ視界50°程度、広視野が見かけ視界65°以上だと言われている。8x30Eの見かけ視界は8×8.3=66°となり、非常に広い視界が確保できる広角・広視野双眼鏡であるという事になる。
ポロプリズム式とダハプリズム式の仕組みと違い。
ポロプリズムとは双眼鏡の伝統的な技術で、19世紀にイタリアのポロ氏によって発明された方式。接眼レンズよりも対物レンズを広くした場合には、より立体的な像が得られる事になる。全反射を利用して正立像を得るために損なわれる光がなく、解像度も高くシャープ。比較的単純な構造であるために、設計もしやすい。ただしダハプリズム方式と比べると、比較的大きめの作りになる。
ダハプリズムのダハとはドイツ語で屋根を意味する言葉。その名が示すとおり、三角屋根のようなプリズムとそれを補助するプリズムによって正立像を得る方式。全反射を利用しない面を要する事から、光の損失によって解像度を損なう可能性がある。それを防ぐためには高度な技術が要求される。ただし、接眼レンズと対物レンズが直線的に配置出来る為、より小型で軽量に設計できるという長所も備わる。
スペックの明るさという、理論上の指標。星空の天体観測。
明るいという特性を鑑みれば、明るければ明るい程に夜間での視認性が向上する。明るさの差異は、日中は然程に影響を受けないものの、日が暮れてくるとレンズ内の見易さに影響が大きい。特に星空を観察しようという場合には、より明るいレンズであるほうが、より多くの星を見つけることを可能としてくれるもの。
仕様の明るさは、その値が大きい程に理論上明るいというもの。スペックとしては、ひとみ径の二乗で表されるもの。そしてひとみ径そのものは、対物レンズ有効径÷倍率というものによって導き出される。つまり対物レンズ有効径は、直接的に明るさに影響を与える事になる。しかしこのスペック上に示される数値そのものは、理論上に導き出される数値であるとされ、実際にはコーティングなどによって影響を受けるものとされている。
天体観測をするに向いた機種は多くあるが、よりスタンダードに用いられているモデルとして、ニコン7X50SPという機種がある。これもまた同社を代表するような日本製のロングセラー。これまで数多のユーザーから支持を集めてきた名機である。またこのモデルと双璧をなす名品として、富士フィルムが販売するフジノン7X50FMT-SXという製品も存在する。
天体観測においては、三脚を使用するなどして手振れ対策の重要度が高い。この場合も、防振仕様の双眼鏡などがあっても心強いところである。通常使用においても、手振れが緩和されるだけで格段に見え方が改善される。たったこれだけでレンズ本来の性能を引き出し、また堪能できる。
Nikonポロプリズム式双眼鏡、8×30Eの外観および使い方
見た目は伝統的でいて正統派なザ・ポロプリズム式双眼鏡。どんな場所にでもカッコ良く佇み、軽く持ちやすい。もっと小型で携帯しやすい双眼鏡も存在しているものの、性能との兼ね合いを鑑みれば、非常にバランスの取れた逸品である。
この8×30というスペックの使い勝手の良さは、軍事的にも広く普及した素晴らしいもの。この型の元祖とも言われるCarl Zeiss Jenaのデルトリンテム8×30は、砂漠の狐と呼ばれたロンメル将軍が北アフリカ戦線で使用していたことで知られている。そんな名品と比べてみても、基本設計や工業デザイン的に近似している点が、かえってその性能に対する信頼と安心感を高めている。
アイカップは、別途に新品購入することが可能になっている。目当てゴムが経年劣化し、曲がりにくくなったり、引きちぎれたり、汚れたり、様々な場面で交換が必要になることもある。そんなときにでも平型目当てゴムだけを交換する事も可能である。
上部中央にはピントリング、右眼の接眼レンズに視度調整リングが設置されている。下部にはストラップホルダーが2か所設けられており、ネックストラップを通すことが出来る。双眼鏡もカメラと併用する場合には、ピークデザインのストラップを用いると非常に利便性が高くなる。
ポロプリズム式双眼鏡、ピント調整の方法。
step 01. 右目を閉じて、中央ピントリングを調整する。
step 02. 左目を閉じて、視度調整リングを調整する。
step 03. 以降は全て、中央のピントリングのみを操作する。
三脚アダプターで、双眼鏡を三脚に据える。
信頼ある三脚を用いると手振れが極めて軽減される。三脚自体の剛性が弱いと風に煽られて振動するものもある為、ある程度信頼感のあるメーカーの製品を用いたい。双眼鏡を三脚に据え付けるには、専用のアダプターが必要である。Nikon 8×30Eや8×30EⅡなどには、ポロプリズム式双眼鏡専用に用いる三脚アダプターを別途購入する必要がある。ニコン純正のものであれば、日本製で作られており剛性も抜群に良い。
装着の仕方としては、アダプター本体を双眼鏡の中心軸に差し込む。凹型になっておりしっかりと固定、軸押えを上部から回していく。あとは三脚の雲台に設置するのみ。手振れが抑えらえられることで、レンズ性能や見え味が引き立てられる。ポロプリズム特有の立体感は格別で、観光地や展望台などに設置されている大型双眼鏡を彷彿とさせる。
この場合、天体観測だけでなく通常の自然観察などの場面で使用するのも良い。もっと大型、または高倍率の双眼鏡を用いる際には必須アイテムとなる。手振れ防止の効果は勿論、長時間使用の際には疲労軽減にも効果がある。そうした使い方では、一脚を使用するという手もある。
Nikon 8×30Eと8×30EⅡの主な仕様
製品名 | 8×30E CF・WF | 8×30EⅡ CF・WF |
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発売年 | 1978年 | 2006年 |
形式 | ポロプリズム中央繰り出し式 | ポロプリズム中央繰り出し式 |
倍率 | 8倍 | 8倍 |
対物レンズ有効径 | 30mm | 30mm |
実視界 | 8.3° | 8.8° |
見かけ視界 | 66° | 63.2° |
1000m視界 | 145m | 154m |
射出瞳径 | 3.8mm | 3.8mm |
明るさ | 14.4 | 14.4 |
最短合焦距離 | 7.0m | 3.0m |
眼幅調整範囲 | 50-75mm | 56-72mm |
高さ(最大値) | 101mm | 101mm |
幅(最大値) | 179mm | 181mm |
重量 | 520g | 575g |
製造国 | 日本製 | 日本製 |
ブログ:サギたちのコロニー、双眼鏡とカメラで観察する。
夜明けと夕暮れ、鳥たちが一斉に行動する。朝方には一様に飛び立ち、夕方には揃って帰ってくる。またはコロニー周辺では、巣の材料を何往復もしながら運び込んでいる鳥の姿もある。多少の種類は異なっていても、この集合団地には多くの鳥たちの姿。観察中は驚かさないように、ゆっくりとした行動も不可欠。
双眼鏡を用いながら、生態を観察。しっかりと行動を把握してみたり、またはカメラで撮影するのも良い。やはりその際には、威圧感あるレンズをイソイソと取り出すのでは警戒感を煽るもの。最初はゆっくりと双眼鏡で様子を探ることから始めたい。