ニコンMF単焦点、AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S。超絶なる長寿オールドレンズ。

Nikon Fマウント

NIKONニコン不動の超ロングセラーレンズ、Ai-s 55mm/f2.8 micro。マニュアルフォーカスレンズであれど、ニッコール全体を代表するかのような押しも押されもせぬ、名玉中の名玉である。1981年の発売以来、2020年現在までも販売され続けている。フィルムを用いて文書を複写するといった用途でも十分にその役割を発揮できるよう、素晴らしくシャープな線を描き出す。その解像感は凄まじく、確実に現代でも通用する写りだ。

同時に55mmという画角は、何とも中途半端なように思えるが、実際に使ってみると非常に使いやすいレンズ。ただ漠然と切り取るというより、何かを主役と据え置いて撮影する楽しさを味わうことが出来る。マイクロと謳われているが、活躍の場は無限大。ただ接写のみを楽しむだけでなく、街に繰り出し、森に繰り出したい。そうしてあらゆる被写体の魅力をクローズアップし、精細に映し出してくれる圧巻の逸品。

AI-S 55mm/f2.8は、ニコンの良心。極上オールドレンズ。

ちなみにキヤノンであればマクロレンズと呼ぶが、ニコンの場合には定義に忠実にマイクロと呼んでいる。厳密にはマクロというのは、顕微鏡を覗いた時のような原寸大以上のものを指す為、一般的に写真で用いられる等倍での撮影ができるというだけでマクロ写真とは言えないのだという。ニコンの技術者陣においては、この定義から忠実に名付けた。

小ぶりで手に馴染む、ai-s 55mm micro

ところで広義のマクロニコンでいうマイクロレンズいうのは、撮影の幅が広がるもの。ほんの少しだけ庭に出てみるだけで、新たな発見が芽生えるのである。身の回りの些細な出来事、このレンズを携えて焦点を当てるだけで良い。何にも代わり映えしないように思えた風景、何かを探そうと意識的になるだけで、多くの出会いへと導かれる。これまで気が付きもしなかった多くの生き物たちの生業が、実はこんなにも近くで繰り広げられていようとは。

庭先で、フィルムPREMIUM400にて。

だからと言って、マクロ領域でのみ活躍を期待するべき製品であるだけではない。その描写力は驚嘆せざるを得ない。何を切り取っても素晴らしい絵が、必ずや飛び出てくるのである。特に線が密集したような緻密な被写体において、より真価を発揮するように思える。フィルムで撮影した場合、その表現の相乗効果に惚れ込むしかない。そんなコラボレーションによって生まれ得る、あらゆる可能性を試行錯誤してみたくなるもの。

フィルムもデジタルも、時代を超えて通用するMF単焦点レンズ。

線の緻密な風景、フィルムで撮影。

勿論、デジタル一眼レフカメラが主流となった時代までも、その可能性は決してついえてはいない。ニコン社が販売するFマウントの一眼レフならば、たとえデジタルであったとしても通常使用が可能である。更に他社製品であっても、アダプターを介する事で使用する事が出来るようになったりする。このようなマニュアルフォーカスレンズを、より機能性が重視されるようになった後年までも超長期に渡って販売を続けている事実は、ニコンの良心とも言えるものである。

フィルム時代のレンズは、断じてデジタル高画素時代を想定して開発されている訳ではない。それでも約3040万画素のデジタル機で撮影した写真で、そう易々と粗を見つける事は出来ない。むしろろ反対に、その表現性に舌を巻くくらいである。最新のデジタル一眼を用いた場合、可能性の広がりも見出される。ライブビュー撮影やミラーレス機の液晶表示によって、ピント位置をより的確で敏感に調整する事が可能になるのである。

スタイルの追究、ぜい肉をそぎ落とした理想形。

光学性能に、一切の妥協なし。Nikon F3

軽量性を希求した場合にも、オールドレンズの活躍の場は更に拡大する。カメラ製品の場合には基本的に、機能性と軽量性は必ずしも両立しえない。ともすれば、手振れ補正機能やオートフォーカス機構、より強固な防塵防滴性能を重視した撮影には、このようなレンズは向かないというべきであろう。ただし本体の軽量さや心身の軽快さに、より比重を置いた撮影行においては、至高の道具という事が出来るのである。

同時にこのような見方をすれば、ミラーレス一眼機との相性は極めて優れている事にもなる。それは一般的にレフ機よりも機構が少ない分、軽量。しかもマニュアルフォーカスレンズが捨象しているはずの機能性部分までも補完。特に5軸ボディ内手ぶれ補正などを用いる事で、更に使い勝手を進化させることが出来るのはやたらと頼もしい。

キヤノンデジタル一眼レフ×ニコンMFレンズ

ちなみに名玉と名高い、この優れたレンズを使用できるのは、根っからのニコン党ばかりの特権という訳でもない。マウントアダプターを用いる事で、たとえばキヤノンの一眼レフでも撮影できるようになったりするのは、非常に嬉しい事。このような人類の遺産としての名玉に、より多くの写真愛好家が触れる機会にあずかるというだけでも、望外の喜びというべきである。

マイクロ55mmの描写力が秀逸、妥協せぬ銘玉マクロレンズ。

マイクロの秀逸なる、圧巻の描写力。Nikon F3

広義のマクロレンズは、近距離撮影が基本的には可能であって、それでいて風景も撮影できる。特に描写力に至っては、秀逸なるものが多い。であるからして、あらゆる場面で万能の働きを期待できるのである。そうした点においては、カールツァイスイエナのフレクトゴン35mmやキヤノンの100mmマクロなどと併用する事で、多くのシチュエーションに対応可能になる。ズームレンズですべての画角を網羅するのとは感覚の異なる、そんな万能性が確保できるのである。

好ましい安定性、わずかな意外性。Nikon F3

55mmという画角についても、肉眼と見る世界と殆ど近似しており、違和感は全くと言って良い程に無い。それよりも撮影のし易さ、画角の決め易さが際立っている。数値上はあまり違いは無いように思えるが、50mmが標準レンズのスタンダードである事を鑑みると、この何とも中途半端な焦点距離が、意外なヒット性の当たりを実現してくれるのである。脳内イメージで意図する絵よりも、説明的な部分をわずかばかり捨象する。そんな意外性が、優れて好ましかったりするのであろう。

Nikon AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8Sの作例

フィルムも、デジタルも、素敵な描写。

フィルムであろうとデジタルであろうと、素晴らしい描写性で魅了してくれるレンズ。カメラに装着して気の向くままに散歩。すると軽量な装備で、疲労感もより軽減。ピントを合わせる行為によって、その時の記憶をより鮮明なものとしてくれる。

ネガフィルム×マイクロニッコール55mm/f2.8作例

デジタル×マイクロニッコール55mm/f2.8作例

Nikon AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8Sの外観と使い方

AI-sマイクロ55mmをNikon FEに装着。

このレンズの見た目は非常に精悍。上から軍艦部の覗き込んだ際の精密機械然としたカッコよさは、使用する喜びとして反映される。例えばダイヤル類の表示、それからレンズ自体が備えたる素材感。金属加工特有の工業的な美しさが、絶妙に映えた逸品である。しかもそれを手に持った時のカメラ、レンズとしての馴染みに良さも抜群に良い。

ピントの合わせ方。ピントリングを回す。

ピントリングを回す。

レンズ前玉側に備えたる操作環がピントリング。左右に回転させる事で、ピント位置を前後に動かすことが出来る。この場合、非常に滑らかなトルク感は、ただ目的に応じて操作するだけで、心地の良い高揚感を得ることが出来る。レンズの全長は、ピント位置に応じて変化。突出したり、引き込まれたりする。

無限遠でのレンズ全長。

ピントを操作するこの場合、一番レンズの全長が短くなるのは無限遠に設定したところという事になる。実際にレンズ上部に表示されるピント位置のダイヤルを確認、そこで♾との表記が示してある通りの位置だ。

最短撮影距離、マクロ域での撮影。

それとは反対に、ピントリングを操作して最短撮影距離でのピント位置に設定。そうすると目盛りはメートル表記にて、0.25の位置を限度に止まる。勿論のこと、このレンズの最短撮影距離は25cmである。因みに、AIオート接写リングPK-13使用時には、22.5cmにまで縮めることも可能である。

接写、最短撮影距離0.25m、最大撮影倍率0.51倍。

最短撮影距離にて、郷土玩具のキジウマ撮影。

マイクロレンズと謳われているだけに、勿論のこと広義のマクロレンズとして十分に寄った撮影が可能。最短撮影距離においての最大撮影倍率は、0.51倍である。別途、AIオート接写リングPK-13を使用することにより、等倍での撮影も可能となる。つまり狭義の意味においてのマクロレンズとしても使うことが可能となったりするのは、大変に興味深い。

最短撮影距離、25cmにて撮影。

最短撮影距離で撮影した場合には、上記のキジウマ大きく捉えることが出来る。マクロレンズは、基本的にマニュアルフォーカスを多用する場合が多い。その為、デジタルを常用していたとしてもマクロ撮影の入門機としても最適な選択肢ではないだろうか。55mmという焦点距離も中々に使い勝手が良い。マクロレンズとしてだけでなく、標準レンズとしての顔を期待して持ち出すにも、その利便性は良いのだから。

絞り値を変更する。F値を変える。

絞りリングを操作する。

絞り値を変更するには、レンズ後玉側の操作環を回す。その際には、●印を見ながらダイヤルを変更する。開放値は勿論のことながら、F2.8である。デジタルで使用する場合にも、レンズ側でのみでしかピントも絞りも変更することは出来ない。

K&Fマウントアダプターで、他社カメラに装着する。

ニコンFマウントであれば、デジタルであろうとフィルムであろうと装着できるのは、ニコン機の特権。ただし、マウントアダプターを使用する事で、他社カメラでも使用できるようになるのは非常に喜ばしい。例えば、K&Fのマウントアダプターを使用することで、キヤノンの一眼レフカメラにも装着可能になる。勿論、この場合にもEFマウントであればフィルムやデジタルを問わない。

マウントアダプター、赤●を合わせてEOS-1Vに装着。

レンズにアダプターを装着し、ボディ本体に表示された赤●を合致させると通常のEFレンズと同じく装着する事が出来るようになる。K&F製品の場合、カチャンとしっかりと止まり、剛性感も良い。

K&F製アダプターの場合、この爪を押えてレンズから外す。

このアダプターには説明書が付属していない為に、一度レンズに装着してしまった後に外し方が分からない事もあり得る。この製品の場合には、アダプター側の赤●の直下に押し込める爪部分がある。この爪部分を押し込みながら、通常レンズを着脱する方法で回転させれば良い。これによって、ニコンレンズをキヤノンカメラで楽しむことが可能。

レビュー:マクロレンズで、焦点距離をカバーする。

広義のマクロレンズを用いてみると、その万能性に驚嘆する事がある。例えば、単焦点100mmや55mmや35mmといった焦点距離レンズを3台持ち歩く時、その軽快さは頼もしい。街歩きの際には、ふらりと立ち寄った先の喫茶店や料理店でテーブルフォトするにも、その活躍の幅は広がる。

マクロレンズで、焦点距離をカバーする。

しかもその際には、AI-sマイクロ55mmの様に小柄で軽量で威圧感も少ない存在が、かえって頼もしく貴重な存在となる。オールドレンズというのは、往々にして骨董品の様な扱いをされがちなのだけれど、よくよく考えてみれば旧来の精鋭、最新技術を搭載したレンズであった時代もきっと存在する。特にこのレンズは、光学性能でも優れており、時代を超えて重宝されるのも肯けるというもの。

現代においては、ズームレンズもその性能は明らかに優れた物も多い。しかし、一本一本の軽量性を鑑みた場合には、比較的重量級の存在も散見するところ。それが開放値の比較的明るいレンズともなれば、尚更その傾向は強い。ところでマクロレンズは、通常の明るめの単焦点レンズと比べてみれば、開放絞りも比較的落ち着いたF値である事が多い。

ネガフィルム、PREMIUM400で撮る夏。

このレンズもご多分に漏れずに開放絞りF2.8というスペックであるけれど、この明るさが仇となる場面は、早々に訪れる事はない。特にそれが、高ISOをモノともしない現代のデジタル一眼機との組み合わせとなれば尚更の事である。それ以上に、マクロレンズならではの接写を可能とする部分が、特に活躍の場を広げる場面も多いものである。

無限遠でも、大いに活躍。

その万能性は、数本のズームレンズによって広く焦点距離をカバーできる体制を敷いた時とは異なる印象のものではある。しかし、足を使って構図を決めるという基本的な写真の撮り方に忠実でありながら、決して切り取るという行為を疎かにしない撮影が可能になるのだから心強い。更にマクロレンズの緻密な描写は、写真を撮るという行為に、きっと夢中にさせてくれるに違いないものである。

AI-S Micro-Nikkor 55mm f/2.8の特に優れたポイント

このレンズは、描写力や汎用性に著しく優れている。それをさて置いて、このレンズは嬉しいことにフードを必要としないほどに、レンズ前玉が引っ込んだ作りになっている。

引っ込んだ前玉による恩恵。

この為、通常使用において撮影中に汚れにくく、レンズキャップをする際などに指先がレンズに触れる心配がないというのも非常に良い。この事によって、もしカメラバッグ内でキャップが外れてしまった際などでも、前玉が傷つく恐れも少ないレンズである。

AI-S Micro-Nikkor 55mm f/2.8の苦手とするところ

マクロから、無限遠に至るまで。

オールドレンズであるから、防塵防滴や手ぶれ補正があるわけではない点。また同じく単焦点レンズであっても、明るい大口径単焦点と比べて、比較的暗いレンズである事は把握した上で運用する必要がある。ただしその点を踏まえて運用した場合には、無類の働きを約束された様な素晴らしいレンズなのである。

コラム:デジタルとネガフィルム、感性の異なり。

昨今においては、マウントアダプターを介する事で、デジタルもフィルムもレンズを同じくして撮影出来たりする。そこにはいずれにおいても、異なった魅力が存していたりする。時代は移り変わっていき、フィルムは少しずつ生産販売を中止し続けているものの、決してその魅力は損なわれてはいない。

デジタル写真が登場するまで、フィルムという技術は進化を続けていた。しかしながら、フィルム時代にはデジタル表現を手にする事もできなかったのである。そうすると現代においては、双方の技術を用いた写真を手にする事も可能となっている事に喜びを感じ得る。アナデジ世代ならではの特権を享受出来る事に感慨も一入の事。

ただし、主流であったサクラカラーやコダックなどが破綻した事も記憶に新しく、最後まで生産を続けたフジカラーにおいてもフィルムのラインナップは極めて限定的になった。フィルム表現性も選択肢として楽しむという文化は、少しずつ失われつつある。それもまた時代の流れとして、受け止めなければ致し方のない事ではあれど、しかしまた、その事実に寂しさも禁じ得無いところである。

ところでデジタルやポジフィルムは、ラティチュードがネガフィルムと比べて狭い為、陰影のコントラストが非常に美しい。それと比べるとネガフィルムは、非常にラティチュードが広いために陰影を落とし込むよりも、色彩によるコントラストが映える。例えば、ソール・ライター氏の様にポツンと赤い傘の人物が居るという写真の表現は面白い。

このように敢えて意識的にネガフィルムを用いて、表現方法を変えてみるというのも一興。デジタルでもフィルムでも同じように用いる事ができるレンズで、一人の撮影者から多様な表現が導き出されたりする。そのようにしていると、以前ならばフィルムで表現を変えていた時代のように、凝り固まらずに意外性をもっと楽しむ事ができるようになるのかも知れない。

ひいては今後一切のフィルム文化が失われ、デジタルという選択肢しか無くなったとしても、より広い視野で写真の現像を楽しむ事のできる下地となるやも知れないと思えるのであった。そしてデジタルもまた進化を続け、もっともっと豊かな諧調を手に入れるに違いない。きっと来たるその日の為に。

ブログ:AI-Sマイクロニッコール55mmで、鄙びた温泉を巡る。

かつて街道沿いに華やいだ宿場町。約600年ほどの歴史を持ち、温泉地としては有名な場所であった日奈久。この場所は「どこよりも日奈久」と有名な保養地となった。入り組んだ路地裏とレトロな建造物群が所狭しと立ち並び、情緒ある町並みが広がっていた。

AI-S Micro-Nikkor 55mm f/2.8で、撮り歩いた鄙びた温泉街。所々注目しながらも説明的な写真も撮れる。出会った動物や鳥たちなども画角に収められるところはとても便利。