フィルム写真は肉眼で見た印象をそのままに、あの時の記憶を再現してくれる。人物であれ何であれ、思い出を空気感まで含めて、そのままの形で残してくれるもの。諧調性なども素晴らしく、明るいところから暗いところまで、幅広く描写できる点もフィルムの長所である。特に何処へでも持ち歩きが容易なコンパクトフィルムカメラなら、思い出を美しく残す事が出来る。
おすすめのコンパクトフィルムカメラを、実際に撮り歩いた写真と共に綴る。
いつでも、コンパクトフィルムカメラを片手に。
昨今、著名人や写真家、SNSの影響でフィルム写真が再び脚光を浴びている。デジタルでの撮影が当たり前となった現在にあって、そこには無い価値が見出され始めている。
写真を撮る上で撮りたいときにサッと撮れるというのは大きなアドバンテージとなる。カメラが小さくて軽く、いつも持ち運べるというだけで大いなる価値がある。それを難なく実現してくれる存在がコンパクトカメラである。それがコンパクトフィルムカメラであればこそ、カメラにとって最大のライバルともなったスマホとも差別化されるというもの。
それを生産する各メーカーのカメラそれぞれ特色があり、記録するフィルムだけでも豊かな個性がある。その多くの違いや組み合わせ方もフィルム写真の醍醐味として、楽しみ方の一つとなっている。
オススメの高級コンパクトフィルムカメラを比較
さてフィルムカメラを楽しむ際の入り口として、コンパクトフィルムカメラは最良の選択になりうる。個人的に多くのカメラの中から研究し選択した、軽くて写りも良く、そして異なる画角を持つものを取り上げてみたい。
ここに列挙するカメラは、初めてフィルムカメラに足を踏み入れる方にもオススメできるコンパクトフィルムカメラの逸品たち。それぞれ、画角やファインダー内表示、大きさ、重量なども考察した。
カメラ | Minolta TC-1 | CONTAX T3 | CONTAX TVSⅡ |
---|---|---|---|
外観 | |||
内部表示 | |||
発売年 | 1996年 | 2001年 | 1997年 |
レンズ | 28mm F3.5 | 35mm F2.8 | 28-56mm F3.5-6.5 |
大きさ | 99x59x29.5mm | 105x63x30.5mm | 123x67x45.5mm |
質量 | 185g | 230g | 375g |
電池 | CR123A | CR2 | CR123A |
案外重要なのは、ファインダー内の見やすさ。それに重量は歩いて撮るという事を考えるととても重要な要素。こうした見落としがちになる部分にもしっかりと目を当てていきたい。
コンパクトフィルムカメラおすすめのポイント
カメラ選びの際、その選択肢は無尽蔵。そんな中いくつか重視するポイントを見つけて、可能な限り自分に合ったカメラ選びをしたいところである。例えば、上記で取り上げたカメラ3台の特におすすめのポイントは下記の通り。
01 全自動カメラ。フィルムを自動でセッティングし、巻き上げてくれる。それにより、フィルムの扱いに慣れていなくとも失敗がなくなる。
02 オートフォーカス機能。ピントを素早く合わせることが出来るかどうか。撮りたい一瞬を逃さない。勿論、目測式カメラで遊ぶのも良い。
03 レンズの描写力。緻密な描写で、他にはない個性的な写り。切れ味が良いとか、色味が良いとか、感覚的な問題でもある。
04 サイズ感。 手に馴染むかどうかは案外重要。撮りたいときにすぐ取り出せるとか、落としにくいとか。手ブレにも影響する。
05 ルックス。 やはり見た目も重要。高級感のあるチタンボディ。持ち歩きたくなり、使うたびに愛着がわく。しかもタフな使用に耐える頑強さ。
現在のデジタルカメラでは、ごく当たり前となっていても、フィルムカメラ時代においてはとても貴重な機能もある。しかしフィルムカメラ最後期のモデルは高性能なものが多く、最新のデジカメと同じような感覚で撮影できるものもある。まさに列挙したカメラは、そうした高性能機種である。
特色あるコンパクトフィルムの中でもオススメするならば、手に入りやすさや長期使用での壊れにくさという観点から言っても個人的には上記に列挙したようなカメラが良い。28mmはミノルタTC-1、35mmはコンタックスT3、ズームはコンタックスTVS2というラインナップを考えた。しかし21mmにはリコーGR21、28mmにはリコーGR1vなどを加えても最高の面子になりそうだ。
更にはデジタルカメラや一眼レフカメラのサブ機とすることでも、その可能性は幾重にも広がっていく。それはまるで、極北の大地を走る犬ぞりのように、互いを補い合いながら、撮影者を手厚くサポートしてくれるものである。画角や表現の違いを活かし、被写体の魅力を最大限に伝えようとする試みは、最高に面白い。
単焦点、ミノルタ TC-1という選択
Minoltaの単焦点コンパクトフィルムカメラ、TC-1。その存在は小型を極め、まるで忍者のように周囲に溶け込む 。それでいながら性能は圧巻。レンズはミノルタ渾身のGロッコール28mm単焦点、F3.5の完全円形絞り。すべての絞りで美しい真円形のボケ味を実現した。その凄みある描写力も特筆すべきもの。
そしてなにより、ピント位置と測光位置を別々に設定して撮影できる、玄人志向の非常に珍しい機種。一眼レフ並みの性能をそのまま名刺サイズまで落とし込んでいるため、撮影者の表現の幅も大きく広がる 。なおかつ全自動のラフさも兼ね備えている。その甲斐もあって多くのプロカメラマンに愛された製品である。
ミノルタ TC-1の作例
─ 王道を極める。写真機の中の写真機。─
世界は、美しい。そして、出会いに溢れているのだった。その時、その場にて、見て聞いて感じることが出来るのは、常に一人。いつも、特等席が用意されている。自分という存在は、この広い世界の中で、変わることの出来ない唯一の招待客。
ミノルタ TC-1の単焦点28mmについて
単焦点28mmという画角は、漠然と街を歩き視界そのままというイメージ。説明的でありながら、まったく違和感のない絶妙な焦点距離である。そんな写真を眺めると多く発見に導かれる。あの時のあの場所で起こっていた出来事をよくよく観察する。そんな風に楽しむことが出来る。
TC-1を一度使用すると、そのギミックの面白さや名刺サイズ大の小ささに度肝を抜かれる。それでいてオートフォーカスも使用でき、絞り優先自動露出まで完備されている。それにレンズの描写力の凄まじさは圧倒的、まさに至高の存在と言える。
単焦点、CONTAX T3という選択
CONTAXの単焦点コンパクトフィルムカメラ、T3。非常にスマートな体躯から放たれる誰しもが魅了される色彩美。コンタックスT3は、35mm F2.8単焦点レンズの明るく、素晴らしい解像力は勿論の事。それに組み合わさるCarl Zeissカールツァイス社特有のコントラストの魔術によって織りなされる彩り。その超越した表現力には脱帽するしかない。 その為、こちらも非常に人気が高く、多くのプロ写真家にも愛用された。
しかもプログラムオート機能を使うことで、老若男女、誰もが失敗無く撮影する事が出来る。ピント位置のみを決めて、あとはオートフォーカスに任せるだけ。写ルンですのような気軽さも持っていながら、より高性能。スナップ写真の楽しさを最も味わうことが出来るカメラ。
CONTAX T3の作例
─ その色彩に、惚れる。虜になる。─
他所の空気に身を浸せば、次第に自らを見つめていた。新たな発見が、心のパレットに緻密な色を足し、少しずつ人生というキャンバスを彩っていく。見慣れたはずの日常が、実はこんなにも鮮麗な世界であったのだ。自分の当たり前という蓋が、外された瞬間。
CONATX T3の単焦点35mmについて
単焦点35mmという焦点距離は、街を漠然と歩いているというよりも何かに少しだけ気を付けた状態。注視しようと意識を傾けたような状態。視線が少しだけ定まった状態。この画角は、説明的でありながら説明的になりすぎないという絶妙な距離感を味わうことが出来る。
コンタックスT3。誰もが魅了される写りの良さ。
カールツァイスといえば、写りの良さの指標を生み出した企業。写りをMTF曲線を用いて、解像度とコントラストの関係性によって決定されるものとした。今ではカメラ業界において、常識ともされるモデルを初めて考案したのである。
当然ながらコンタックスT3の写りも魅惑的。素晴らしき色彩によって誰もが虜にされること間違いなし。切れ味の鋭い解像度ばかりが、写真の魅力ではない事を如実に示してくれる逸品である。
ズーム、CONTAX TVSⅡという選択
CONTAXのコンパクトフィルムカメラ、TVSⅡ。コンタックスTシリーズの陰に隠れた存在。TVSシリーズは各社が競って手掛けたコンパクトフィルムの中にあって異色。なぜならズームレンズを搭載した希少な存在だからである。このカメラがより利便性を追求したからと言って、その描写性は決して侮れない。
Carl Zeissカールツァイス社製のVario Sonnarバリオゾナーは、高解像と高コントラストの高水準の均衡バランスを追求。 人間の視野感覚に近い28-56mmという画角を備えていることで、よりその場の印象をより的確に切り取ることが可能。グリップが手に馴染み、しっかりと構える事ができるのも特徴。そして、こちらにもプログラムオート機能が搭載。これ一台を旅行などに持ち出せば、殆どすべての状況を美しい写真として残すことが出来る。
CONTAX TVSⅡの作例
─ 旅をもっと、面白くする。─
もっと足下をじっくりと見てみたい。旅はそんな風に思わせてくれる。いつもと違う所にも誰かの日常があることに今、気が付いた。もっと私の日常を大切にしたくなる。それが旅というもの。
TVSⅡのズーム28-56mmについて
人が持つ感覚に近い標準域全体をカバーする28-56mmという2倍率の画角は、旅行などで活躍する。一台を持ち歩くだけで思い出を記録するには完璧に役割を全うしてくれる。それを可能としてくれる安心感だけで、価値あるカメラである。
人の目は明らかに優れている。普段から見たいものを見分け、ある時は広い視野を持ち、ある時は遠くのものを見分けることができる。また美しい部分だけを見つめることだって、汚い部分だけを見つける事だって出来たりする。画角だけを考えれば、TVSⅡはそんな人の目に少しだけ近づくことができるような感覚を得られる。
高級コンパクトにおいては、珍しきズーム機。それにしても素晴らしい雰囲気で世界を表現してくれる名品である。ズームであることが妥協ではない。そんな事を体現するコンパクトカメラ。比較的体躯も大きめであるが、その扱いやすさは素晴らしいもの。様々な状況を1台で対応することが出来る信頼感は厚い。
高級コンパクトフィルムカメラとは
コンパクトフィルムカメラの種類は多様性に富む。このジャンルのカメラを国内外で数多のメーカーが手掛けているが、それぞれに個性というべき魅力が備わっている。絵作り、画角など、どの製品にも特色がある。それはカメラ達が本質的に持ち合わせた自我なのである。
高級コンパクトフィルムカメラとは、一眼レフカメラの大口径レンズに肩を並べる程の超高性能レンズを装備しながら、ポケットに入るほどにまで小型化され、耐久性にも優れた高品位な外装が施されたものである。そんなカメラの開発をメーカー各社が、前途や威信を賭して手がけた。
技術の粋を結集したカメラは1980年代から1990年代を軸として、各メーカーにとっての主力を担っていた。日本は高度経済成長とその後の未曽有のバブルを経て、経済が失速する。そうした激動の時代をまたにかけた製品たち。
カメラメーカーは挙って、その豊富な資金力を元手に、贅沢なコンパクトフィルムカメラの開発。そして、消費者たちもそんな夢のようなカメラを、手にすることのできる懐を備えた時代であった。その素晴らしい品質は、まさに今でも通用する一級品たちなのである。
フィルムカメラは一期一会
なぜ、1台目のカメラとしてこのような高性能なものをオススメするのか。それは、コンパクトフィルムカメラは現在中古でしか取り扱いがなく、今買わないと後で欲しくなっても手に入らない場合がでてくるからだ。しかも、その耐久性の見地から言ってもより頑強で高品質なものを選ぶべきだと考える。
デジタルカメラは、スペックの高いものが各メーカーから次々と発売される。自分の好きなタイミングで購入できるだろう。しかし、価格の変動もあり、状態の良いものがなかなか出回らない中古市場では、まさに一期一会の製品たちである。
初めから良いものを手にすると、後悔はない。むしろ、買ってよかったという満足度のほうが遥かに上回る。彼らの個性を考えながら、撮影者の姿勢に合わせたカメラを相棒として迎えるのも良い。一眼レフに比類、いやそれ以上の表現力を各自備えた屈強な奴らだ。人生の最高の一瞬を、最高のカメラで、いつまでも残したい。
小さいコンパクトフィルムカメラは、旅と相性が良い。
おすすめした機種は、どれもポケットに入るほどの小さいコンパクトフィルムカメラである。その為、旅のお供として非常に相性が良い。最高の思い出を最高のカメラで残す幸せは、何ものにも変え難い価値を持つ。
ドコを切り取っても絵になるのが寺社仏閣。緑に朱色の鳥居が映える。歩いていてもとても気持ちが良く、おみくじで大吉がでれば縁起も良い。旅先では、有名な観光地だけでなく、ひっそりと佇む神社を巡るのも面白い。
波打ち際。潮風を浴びながら歩く。フィルムは、空の青も、海の青も自然で美しく映える。
明治や昭和の建造物とも相性が良い。気になったものをどんどん撮っても、全てが絵になるのもフィルムの良さ。
地元の人が買い物をする、昔ながらの商店街に立ち寄ってみるのも良い。レトロな看板と新しくOPENしたカフェなどが混合していて面白い。路地裏へ入ってみると、また違った景色が広がっていたりする。地域性を感じることが出来ると、旅がもっと奥深くなる。
全国各地には、うつわの里や酒蔵がある。どちらも古い町並みが残されている所が多く、とてもフィルムスナップと相性が良い。そして、一目ぼれしたお皿や、お気に入りの地酒をお土産に買って帰れば、食卓にも花が咲くというもの。
旅の最後に、現地のカメラのキタムラで現像、データ化をしてもらう。そして待っている間は、郷土料理に舌鼓。どんな風に撮れていたかと、旅の情景に思いを馳せながら一日を振り返る。
旅×フィルム。まずは「写ルンです」から旅の記憶を残してみるのも良い。このカメラは、本格的なフィルムカメラを持っている人でさえ愛用していたりする。軽量であり何よりもメリットは、フィルムを別途購入し、装填や回収するという工程がなく、ただシャッターを切るだけという気軽さ。
そして、カメラのキタムラでスマホ転送やプリントをしてもらうことで、もっともお手軽にフィルムスナップを楽しむことができる。
もしくは、インスタントカメラ「チェキ」という選択肢も大いにアリだ。現像に出す必要がなく、近くに現像店が無い場合でも可。この方法はどちらも新品が安価で手に入れやすいのも嬉しい。
まずは、”撮るを楽しむ“ことがフィルムカメラの入り口。もっと気軽に旅をフィルムで残したいものである。思い出を形にして残すところから。
思い出はいつだって、そこにある。
現物としての価値を実際に手にすることのできるフィルム。それから第一線級の表現力は、そんな今だからこそ必要とされる価値観である。そして、スマホ同様に持ち運び、圧倒的な描写力で記念写真や記録写真を撮ることが出来るのは、至福の喜びである。
現像され出てくる写真。そこにはやはり、カメラの持つ大切な価値が備わっている。
優れたラインナップの中から一台に絞って愛機として常に傍らに置くのも良い。それでも必ずや撮影者の意図と期待に応えてくれる存在が、コンパクトフィルムカメラ。常に大役を見事にこなすことのできる逸品の数々。
その瞬間、カメラを構えて撮る。シャッターを切った数だけ、発見がある。
思い出は、いつだってそこに。
おすすめのコンパクトフィルムを詳しく紹介
特集したコンパクトフィルムカメラの、魅力や使い方をより詳しく掲載。そんな「カメラを片手に旅をする。」発見と出会いが、少しずつ心の豊かさを取り戻していく。
28mm単焦点 ミノルタTC-1
35mm単焦点 コンタックスT3
ズームレンズ コンタックスTVS2
その他にも、28mm単焦点スナップシューターであるリコーGR1v、撮ってすぐフィルムが出てくるチェキinstax mini 90ネオクラシックは旅で大活躍する。様々なコンパクトフィルムカメラで思い出を残したい。