パタゴニアは1973年にカルフォルニア州ベンチュラで創業された。そして、その創業年から発売され続けた名品の一つとして、スタンドアップショーツという超ロングセラーな製品が存在する。創業者が鍜治場で用いたパンツ。この約半世紀に渡って愛用されてきた短パンは、綿100%で尚且つ9.5オンスのキャンバス地が用いられている。またベルトを通して上品な佇まい。使えば使う程、洗濯すればするほどに味わいを増していく。
機能的で使い勝手が良く、秀逸な肌触りと着心地。勿論オーガニックコットンであることは言うまでもない。今日におけるパタゴニア社のベストセラーな短パンを挙げるとするならば、バギーズショーツやロングが著名。しかし、スタンドアップショーツもそれと並び立つような負けず劣らずの名品であることは、間違いない。特に大人な着こなし。アメカジコーデといったスタイリングには、至極ピッタリの逸品。
創業以来のパタゴニア名品、スタンドアップショーツ。
パタゴニアといえば、言わずと知れたアウトドアブランドの古豪として著名な存在。敢えて語らずとも、多くの人々にとっても馴染みのあるアウトドア用品の総合メーカー。そのパタゴニアの経営理念は、「故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」と明言する通りに、地球環境の保護や持続可能性を命題としている。
大量生産、大量消費が当たり前とされてきたアパレルの世界において、異色であって異端とも言えるような思想を追求してきた。とはいえ、創業者自身が自然に身を浸す実践者であればこそ、自然と共存の道を志向するというのは、必然的であるとも言えるところである。オーガニックコットンが原材料として使用され、フェアトレードが志向されたスタンドアップショーツも例外ではない。
このスタンドアップショーツは、摩耗にも強く頑強。コットンキャンバス特有の質実剛健さが嬉しい逸品。パタゴニアであれば修理などの対応も行ってくれるところであるが、同じものと数十年を共にしてきた愛用者も数多く居るスタンドアップショーツは、ただその存在だけでも信頼に値する。履けば履くほどもっと美しくなっていくような感覚。年を追えば追う程に愛着も増していく。
股下7インチのみになったスタンドアップショーツ。
また創業当初からのロングセラーであることで、修理にも耐えきれない場合でも新しい同型製品が存在しているであろう安心感も嬉しい。ちなみにショーツは馴染み深い言葉では、ショートパンツを意味している。ただしこの点については、2022年よりスタンドアップショーツの股下5インチのものが廃止されて、7インチのものだけに統一されていたりもする。
もっとも、より運動量の多い使用が想定されるならば、バギーズショーツなどに一手先んじられているようにも感じるところ。ただ耐久性や耐燃性の高さについては、それよりも優れた製品である。これらは使用感によって好みのものを選びたいが、スタンドアップショーツのアメカジライクな質実剛健な佇まいや上質さは、バギーズなどとは異なった魅力がある事は論を俟たない。
しかも7インチという絶妙さが丁度良く、また上品なシルエットや素材感の上質さも相まって大人びた雰囲気を保持している。ベルトを用いてタックインするスタイリングもカッコ良く決まるというのも好印象。そのベルトループは”1-1/2インチ(3.81cm)”幅のベルトを丁度良く通すことが出来る。
それは例えば、リーバイス501などの標準的なデニムパンツなどを鑑みても、同等かそれ以上のゆとりがある。更には分厚いベルトであっても難なく装着が可能。クラシカルでボックスシルエットであるから、アメカジなワークスタイルとも相性が良い。Tシャツとスタンドアップショーツだけで完成するようなスタイリッシュさが素晴らしい。
創業者の鍜治仕事にも、歴史あるスタンドアップショーツ。
それもそのはずで、このスタンドアップショーツは鍜治場に籠った創業者のイヴォン・シュイナード氏がクライミングで使用するピトン作りの際に履いていたワークパンツから着想を得てクライミング用に開発。二段構えになったバックポケットは、臀部の保護にもなっており、耐久性も増している。
ちなみにこの当時のピトン作り当時は、パタゴニアの前身であるシュイナード・イクイップメント社時代。再利用可能で高品質なピトンは全米のクライマーたちから支持を受けていたが、これらが自然界の岩壁に残り続けている事実を悲観。クライミングウェア製造に移行し、今日の精神を携えたパタゴニアが誕生した。その様なことから鑑みてもスタンドアップショーツという名品は、パタゴニア社の伝統と歴史の傍らにいつも在り続けた製品でもある。
質実剛健、コーデも映えるアメカジショーツ。
更にはスタンドアップショーツという製品名もユニーク。その頑強なる生地によって実際に糊付けしてある訳でもなく、名実ともに立ち上がってしまう程の短パン。かと言ってパリッとした生地感は上質でありながら、ごわついた印象も少ない。短パンである事によって、そもそも脚部は開放された状態であるから、意外にもこの質実剛健さが好ましく作用していたりする。
クライミングパンツとしての出自を思わせるように、やたらと擦れには強く、また後ろポケットにはベルクロが設置されている。そこにはフラップなどは無く、取り出しやすい開口。それであるにも関わらず、ポケット自体は深く設計されており、内容物が飛び出しにくいような配慮が為されている。
ポケットの深さに関しては、前ポケットも同様の事で一度入れたものが勝手に飛び出してくるという心配はない。こうした意匠の数々を随所に見る事が出来る為、使い勝手にも優れており、着るたびに愛着が増していくような衣服である。綿特有の肌触りの良さや頑丈さを保ちつつ、洗濯すればするほど育っていくような経年変化も楽しむことが出来る。
タフさという軸足に重心を置きながら、財布や携帯やハンカチ程度ならば鞄も不要となるほどの収納性は、半袖短パンの季節にとっては最高の味方。より涼やかで快適な夏を楽しむという目的ならば、言わずとも知れた水陸両用パンツ、バギーズが存在している。
これらは大いに差別化された存在で、ただ単に短パンであるというだけの共通点はあれど、別物の良品であると言える。固めの生地の外観は上質さを伺わせ、アメカジなワークスタイルと相性が良い。まるでデニムを履いている感覚にも近しい。カラーリングもパタゴニアらしい色調で美しい。そして、様々な着合わせを楽しむことが出来るカジュアルアイテムである。
またそもそも生地感がしっかりしているため、ゴムのようなゆとりも無いためジャストサイズで着こなすとずり下がる心配は無い。それにベルトまで通すとなれば、しっかりと固定される。この点はよりルーズな使用感が想定されたバギーズショーツと比べても異なる点。
7インチであるとはいえ、膝上丈であることによって活動域が制限されないというのも頼もしい。そうした観点から鑑みるに、デニム愛用者にとっても夏場の代替品としても好い。涼やかな快適性を手にしながらも、デニムのような強靭さを備えた帆布生地は中々に渋い。ひざ上のショーツは、よりクラシカルで大人であっても楽しむことが出来る。
パタゴニア、スタンドアップとバギーズショーツやロングを比較。
パタゴニアの短パンにあっては、定番中の定番でもあるバギーズショーツは活動量の多い場面において大活躍間違いなしの製品。ランニングウェアとしても選ばれる程の軽量さや動き易さが担保されている。とはいえ、やはりスタンドアップショーツにはそれとは差別化された特別な価値が存する。例えば上記でも言及するベルトループの存在は、ポケットに多くのガジェットや貴重品を放り込んでも全く動じないというベルトならではの信頼感がある。
いずれも同様に深く広いポケットが有難い製品群ではあれど、そこに多くの物品をしまおうとするならばバギーズショーツに付属する紐をきつく結びつける必要性がある。そうするとゴムである利点が損なわれてしまうような気がしてならない。バギーズショーツを履くならば、手荷物は鞄にしまうか、最小限で抑えるというのが実用上最適な方法であろう。そうするとカジュアルシーンにおいては、よりラフで気楽な佇まいが相応しい。
丈感もバギーズショーツは5インチであるがバギーズロングが7インチ。そのバギーズロングと同等の7インチなのが、このスタンドアップショーツである。7インチであっても、膝上丈である為に立って座るというような動作の際にも全く邪魔にならないという利点がある。以前であれば、スタンドアップショーツにも5インチのモデルが存在していたのであるが、廃盤となってしまった。ただ大人の短パンとしては、スタンドアップショーツについては7インチくらいが誰しも無難に履きこなすことが出来るように思われるところである。
スタンドアップショーツは、綿素材であるから質感も天然素材で柔らかである。バギーズショーツやバギーズロングは化繊が用いられており、多少シャカシャカ感がある。水陸両用で用いる事が出来る為に、裏に下着不要なメッシュが装備されている。水や汗に濡れても問題にならないのは、機能的に優れたポイントである。
ただ短パンとしての機能性を鑑みれば、よりスタンダードなのはスタンドアップショーツであるように思える。家で過ごす際のホームウェアとしてはバギーズも最良。これらは別物の使用感が想定されている製品で、その選択は各人に委ねられている。