Nikon/ニコンAI Nikkor 50mm f/1.4S、スタンダードな標準レンズでMFオールド入門。作例レビュー。

Nikon Fマウント

NikonのこのAi-s50mm/f1.4といえば、1981年から2021年までの約40年間という長い年月、スタンダードオブスタンダードな標準域レンズとして販売が続けられたマニュアルフォーカスレンズ。フィルムからデジタルへと移行していくカメラの過渡期を現行販売品として経験したレンズである。入門レンズとしても使い勝手が良く、明るい単焦点とマニュアルフォーカスという一眼カメラの醍醐味とも言って良い要素を十二分に楽しみ、そして学ぶことができるレンズであった。

開放値のF1.4という明るさは、使い勝手が良く、豊富なボケ量とか暗がりでの撮影でも対応力のあるレンズである。しかも小ぶりで威圧感も少なく、質量は約250gと非常に軽量で軽快感のある構成を実現してくれる。明るいレンズであるから、MFのフィルム一眼レフを構えて、ファインダー内部でピントを合わせようという時にも合焦させやすいレンズであった。しかも肉眼に程近いと言われている50mmという焦点距離は、ど標準レンズとして使い易い。ニコンが長きにわたって販売を続けたことからもステップアップレンズとして位置づけることもできるレンズである。

日本の空気感と色彩を映し出す、Nikon AI-S 50mm/f1.4。

EOS-1Vに装着したAi-s 50mm/f1.4。

Ai-s50mm/f1.4での開放値f1.4。その撮影においては、非常に柔らかで甘い描写が空気感を表す。少しでも絞るとハッキリとした表情を見せてくれる。そうしたスタンダードながら、個性も決して損なわない表現力を備えたレンズである。それらを欠点であると見なすことは容易いところなのであるが、あえて表現であると捉えると愛着が増し、手放し難いレンズとなる。最新レンズ特有で好まれるカリカリッとした描写力というよりも、淡白な表現力が好まれているレンズである。

淡く日本的な表現。

例えば、オールドレンズで定番的な位置づけの一つでもあるペンタックス社のSuper Takumar 50mm F1.4と比べてみて、印象論としては日本人好みの空気感や色味を表現してくれるようである。同等のスペック値であったとしても、カリカリ、パキパキでコントラストも高いスーパータクマーよりは、色合いの淡い表現で魅せてくれるような気がする。しっとりとした空気感までも表現してくれる。

落ち葉の季節、渓谷にて。

そういう意味では一癖も二癖もあるオールドレンズと比べると、ai-s 50mm/f1.4の場合、逆光に際してもフレアやゴーストといったものに早々に完全敗北という訳でなく、多少なりとも耐性を備えているレンズである。同時代に活躍した名機、Nikon F3やNikon FEとの相性も抜群に良い。レトロクラシカルな佇まいも好印象である。プロも愛用してきたことを考えると、実に頼もしい光学性能。フィルム表現との相性は当然ながら良い。

小ぶりで、扱いやすい。Ai-s 50mm/f1.4

ただし、ごく普通のスタンダードな表現力であって、そうした意味においてのノスタルジーを感じさせてくれるところがある。むしろ蛇足的な脚色が無いとみれば、標準レンズのスタンダードとして選ばれてきた歴史を当然に感じる。開放値においての周辺減光や収差は残しつつも、一段絞れば実直でシャープな写りも楽しめる。

暗がりでの撮影はお手の物。

長い間、ニコンのラインナップに残っていただけあって、優等生なレンズであるということができる。夜間帯や暗がりでの撮影も難なくこなすことが出来る。明るいレンズであることによる恩恵、そしてこれほど明るいレンズが随分とお手頃に入手する事が出来るというのも実に嬉しいところである。

MFレンズならではの軽量性、散歩レンズとしても最適。

Nikon F3とAi-s50mm/f1.4で撮影。

上記はNikon F3に当レンズを装着し、プレミアム400というネガフィルムで撮影。ちなみにAi-s50mm/f1.4の最短撮影距離は45cm、最短撮影倍率0.14倍となっている。MFレンズであるだけに、フォーカスリングはしっくりと気持ちよく滑り、そしてよく止まる。ある程度重みがありしっかりとフォーカスを心地よく送ることができる。

フォーカス送りも気持ちが良い。

このような動作を鑑みると、MFを楽しみながら学ぶことができるというだけでなく、ミラーレス一眼機などにアダプターを介して装着して映像撮影という使い方も良い。AF性能が向上した現代にあっても、シネマティックな映像分野ではMFレンズが大活躍してくれる舞台。特にMFレンズとして開発、製造されていたレンズならばMFの操作感もしっくりくる。

いつもの木陰、休む猫。

上記も佇む猫をネガフィルムで撮影。ちなみに現代のレンズであれば、レンズに手振れ補正機能が付いていたり、AF機構が付いていたり、そうした多機能さを備えてレンズ自体が光学的に高性能となっている。多くの場合、それらは恩恵となってくれるのであるが、大きさや重厚感を鑑みるとやはりMFレンズにはそれなりに分があるように思われる。

暗がりでも、お手軽な撮影。

金属の筐体、堅牢で精密なレンズでありながらも、軽量で小型であるという点において、MFレンズの存在価値は大きい。AI Nikkor 50mm f/1.4Sも同様の事で、非常にお手軽に撮影行に赴くことが出来る。軽いという事は正義である。それにも関わらず、明るいレンズであるという贅沢。

茂みに隠れる、猫の目にMFで合わせる。

例えばキャノンであればLレンズなどという現代的で、優れた描写力や堅牢性を備えたシリーズも存在すれど、やはり性能と引き換えに重量という点においては、MFオールドレンズの軽量性には敵わないところである。この機動性は写真を撮るという行為をより肯定的なものへと昇華してくれるものである。この事は、その場所でカメラを構えるというところが重要であるカメラ趣味にとって、大いなる価値であるといえよう。

絞ればシャープ、開けば甘い。表現豊かなオールドレンズ。

ハイキング途中。軽いは、正義。

また収差や歪曲など従来ならば修正され、淘汰されるべきと言われていた部分も個性であると見なし、写真や映像の表現を深めることもできる。このレンズにはこのレンズならではの描写が必ずや存在し、またその写りを愛でることが出来るという訳である。

しっかりと絞れば、しっかりと解像。

色彩で鑑みるに、コッテリと濃厚というよりも、淡白であっさりとした光の捉え方であるように思える。伝統的なニコンらしい表現とも言えるところであろうか。ちなみにF8程まで絞り込めば、周辺減光や収差なども随分と軽減され、比較的シャープな写りを期待できる。勿論、天気が良ければ尚更解像感が増す。

絞り込めば、気持ちの良い描写。

ai-s 50mmのF1.4という浅い被写界深度が立体感を生み出す。赤らみはじめたシダを撮る。ボケ味は柔らかく、ビンテージ感に溢れる。ただその柔らかさが心地よい。秀逸なる描写力が必要とされる場面もあれば、このようなレトロな描写力を楽しみたいことだってある。特に日常の何気ない場面を撮影しようという時には、このような昔ながらの表現は何気ない日常を面白く切り取ってくれたりする。

しっとりとした空気感。

50mmという標準画角は非常に構図としても使い勝手がよく、説明的な表現に偏らない。被写体に対して、肉眼に近い画角であると言われる焦点距離であるから、最初に手にする一本としては最良。小型で軽量な使い勝手が得られる。それでいながら、いつまでも手元に置いておいて、使いたくなる画角と明るさを備える。

F8まで絞り込み、シャープに撮影。

しかもフォーカス送りがマニュアルである点、まさしくカメラ自体の性能が素晴らしい今日において、それを道具として駆使する練習にもなったりする。それでいて、日々の喧騒を忘れながら、その行為に没頭。被写体と対話することだけに神経を研ぎ澄ます感覚とそれによって得られる贅沢な時間を手にすることが出来る。

Nikon AI Nikkor 50mm f/1.4Sの作例

Nikon AI Nikkor 50mm f/1.4Sの外観と使い方

Ai-s 50mm/f1.4をキヤノン一眼に装着。

見た目としてはニコンのマニュアルフォーカスレンズらしく、堅牢性を備えた造り。ただこじんまりした可愛らしさも感じ得るところ。長らくニコンにおいても標準レンズとしての地位を確立していた製品。公式に「高性能、小型、軽量化を追求した、標準レンズのスタンダード」として説明される。質量約250gと軽量で、手にすんなりと収まる程の大きさが実に軽やかな操作を実現してくれる。

最短撮影距離0.45m、最大撮影倍率0.14倍

最短撮影距離45cmにて、郷土玩具赤べこを撮影。

最短撮影距離45cmでの最大撮影倍率は0.14倍。標準レンズとして考えるには十分な性能がある。勿論、ニコンの名玉であるマイクロレンズの類AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8Sなどと比べれば相手にはならないところであるが。勿論デジタルで撮影する場合にも、マニュアルフォーカス専用のレンズであるからレンズ側のフォーカスリングでのみ操作可能。

絞り値を変更する。F値を変える。

絞りリングで、F値を変更。

絞り値を変更するには、レンズ後玉側の操作環を回す。その際には、●印を見ながらダイヤルを変更する。段階ごとにクリック感があり直感的な操作が可能。開放値はF1.4であり、最大でF16までの絞りが可能。また当然ながらデジタルで使用する場合にも、レンズ側でのみ絞りを調整する事が出来る。

レンズフードはニコン純正HS-9に対応。

純正レンズフードHS-9を装着。

レンズフードを装着すると、小ぶりな佇まいからすると多少不格好となってしまうところ。ただフードを付ける事により、機能的には向上。余分な光を切ることでフレアの発生も防いでくれる。また前玉に不用意に触れてしまうというような不手際を避ける事が出来たりする。ただしこの辺は、運用の方法や好みの問題に依拠するところ。

マウントアダプターで、ミラーレスや他社カメラに装着。

このレンズも1981年から約40年と長きに渡って、スタンダードオブスタンダードなMFレンズとして販売が続けられてきた名品の一つ。だからこそ愛用者も多いのであるが、やはりそんな存在を現代のカメラでも用い続けたいところである。いや他社のカメラユーザーであっても、そんなレンズを一度は使ってみたいと思うのも自然な事。そんなときに頼もしいマウントアダプターという道具の存在が嬉しい。

マウントアダプターを介して、ミラーレスカメラに装着。

マウントアダプターの装着例として、ニコンFマウントをキヤノンEOSマウントに変換するサードパーティ製アダプターを用い、更にキヤノン純正の一眼レフEOSシステムからミラーレスEOS Rシステムに変換するアイテムを用いる。そんな風にしてこの夢のような組み合わせを実現する事が出来たりする。

レビュー:ニコンのMFレンズ。ど標準、AI-S 50mm/f1.4。

AI-S 50mm F1.4は、マニュアルフォーカスレンズにおいて優れた操作感と光学性能によって、撮影や表現の奥ゆかしさを感じる事が出来る標準レンズ。オートフォーカス機構、手振れ補正機構などを搭載し、優れた性能を備えたるレンズも良いが、マニュアルフォーカスレンズ特有の小ぶりで軽量さを遺憾なく発揮したマニュアルフォーカスレンズも良い。普段使いを敷居の低くしてくれるお気軽さは、やはり存在意義を感じるところ。

表現性は、撮り手次第。

明るいレンズ特有の豊富なボケ表現、そして暗がりの撮影は、表現の幅が広がってくれるに違いない。上記で記したような機構は備えていない為、限られた性能を理解した上で楽しむというのは、寧ろその制限が面白さを追求させてくれるスポーツのルールのようなもの。いわゆるセット販売されている付属の標準ズームレンズから一歩抜け出してみる際に、中古市場に綺羅星のごとく出回るAI-S 50mm/F1.4のような優秀なレンズはお財布にも優しい有力な選択肢と成り得る。

ポートレートの練習にも最適。

F1.4という明るさや、標準画角の50mm。ポートレートにも向かぬはずは無く、様々な撮影に適応できる。単焦点でありながら、その使い勝手は万能である。勿論ズームレンズ程の画角に対するアドバンテージはないが、小型軽量な佇まいとその明るさは重宝するところなのである。

このコラムの筆者
ZINEえぬたな

株式投資の経験を赤裸々に綴った「新NISAにゃん株式ブログ」を更新中。休日は自然や古い町並みを歩き、スナップや風景写真を撮ってます。

株初心者として新NISAで日本株式を中心に熱中。民藝や郷土玩具、縁起物も好きで、オリジナル張り子招き猫・NISAにゃんを作って株ライフ生活の成功を祈願。

その他に"古典は常に新しい"をモットーとして、決して流行に左右されない厳選したあらゆるジャンルにおける定番名品を徹底解説するレビューもしてます。

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